第1夜 ギリシャ神話 その8

テセウスとミノタウロス、大事なのは筋力より帰り道

王妃が木の作り物の牛に入って、本物の牡牛とセックスして、人食いの牛頭怪物が生まれる。で、英雄はそいつを倒す。でも最後、父ちゃんに生きて帰った合図を出し忘れて、父ちゃん海にドボン。テセウスの話、殴って勝つ話じゃないんよ。帰り道と最後の連絡を忘れた瞬間、全部沈む話。

ミノタウロス、出生からもう火事

ユウマ
ユウマ
乾杯してすぐ言う話じゃないんだけどさ、ミノタウロスの出生、普通にやばい。クレタ島の王妃パシパエが、メス牛そっくりの木の作り物に入って、本物の牡牛とセックスする。
で、生まれたのが頭は牛、体は人間、人を食う怪物ミノタウロス。神話、一口目から脂が重い。
だいすけ
だいすけ
一杯目のつまみ重すぎwww
ユウマ
ユウマ
発端はクレタ王ミノス。こいつが海の神ポセイドンに、俺が王にふさわしい証拠として立派な牛をくれって頼む。そしたら海からめちゃくちゃ見事な牡牛が出てくる。
本来はその牛を神に捧げる約束だったのに、ミノスは惜しくなって別の牛を捧げたことにする。神相手にそのごまかし、通るわけないじゃん。
あおい
あおい
相手海の神だよ? まじで何してんの。
ユウマ
ユウマ
ポセイドンはブチギレる。でも罰がミノス本人に直撃じゃない。王妃パシパエがその牡牛に欲情するように仕向ける。投げる場所そこなんだ、ってなる。
パシパエは天才職人ダイダロスに、内側に人が入れる木の牝牛を作らせる。ダイダロスは後で迷宮も作るし、太陽に近づきすぎて落ちるイカロスの父でもある。才能は本物、発注内容は毎回地獄。
店の空気が一瞬だけ止まる。
ユウマ
ユウマ
で、パシパエがその木の牛に入って牡牛とセックスする。そこから生まれたのがミノタウロス。
王のケチ、神の怒り、王妃の性欲、職人の技術、全部混ぜたら人食い怪物が完成。ギリシャ神話、家庭のもめごとがだいたい国規模で燃える。
ハル
ハル
家庭内の火種がでかすぎるんよ。

アテネ、若者で年貢を払わされる

ユウマ
ユウマ
問題はミノタウロスが人を食うこと。王宮で飼えるサイズのトラブルじゃない。そこでミノスはダイダロスにラビュリントスを作らせる。
これ、出口のない巨大迷路。人食いミノタウロスを閉じ込める檻なんだけど、入った人間からしたら檻の中に自分が入る側。最悪すぎる。
だいすけ
だいすけ
閉じ込め方が怖すぎるわ。
ユウマ
ユウマ
で、なんでアテネの若者がそこへ送られるのか。ミノスの息子アンドロゲオスが、アテネ絡みで死ぬ。ミノスは当然キレる。クレタ軍でアテネを攻める。アテネは負ける。
負けた結果、定期的に若い男女をクレタへ差し出すことになる。よく語られる形だと、男七人、女七人。行き先は迷宮。用途は怪物の餌。
あおい
あおい
若者で年貢払うの、怖すぎ。
ユウマ
ユウマ
そう。金でも米でもなく、息子と娘で払わされる年貢。町の空気、毎回終わってる。誰かの家の子が船に乗る。港で泣く。
海の向こうには牛頭の人食いがいる。これが続く。で、そこに出てくるのがテセウス。アテネ王アイゲウスの息子。王子なのに、自分からその生贄の船に乗るって言い出す。
ユウマが箸をマイクみたいに持つ。
ユウマ
ユウマ
ここ大事。テセウスはただ怪物退治に行くんじゃない。毎回若者を取られ続ける、地獄の年貢を止めに行く男。
自分の武勇伝を作りに行くんじゃなくて、アテネの港で泣く親たちを止めに行く。そこは普通に熱い。
ハル
ハル
そこだけ聞くとちゃんとヒーローだわ。

アリアドネの糸、地味だけど最強

ユウマ
ユウマ
テセウスがクレタに着く。普通ならここ、筋肉と角のバトルで盛り上がるじゃん。でもこの話、勝負は殴る前に半分決まってる。
ミノタウロスを倒しても、迷宮から出られなきゃ終わりだから。勝った直後に遭難。英雄の顔した迷子。
だいすけ
だいすけ
ゲームのセーブデータ壊れてるやつwww
ユウマ
ユウマ
そこで出てくるのがアリアドネ。ミノス王の娘。つまり敵国の王女。なのにテセウスに一目惚れする。で、彼女が渡すのが剣でも魔法でもなく、ただの糸。入口に糸の端を結ぶ。
歩きながらほどく。帰りはその糸をたどる。仕組みはそれだけ。派手さゼロ。でも命を持って帰る力はある。
あおい
あおい
恋する王女っていうか、しっかり者じゃんw
ユウマ
ユウマ
しかもこのアリアドネの糸って言葉、今も使う。複雑で出口が見えない問題を解く手がかり、って意味。迷宮みたいにこんがらがった状況で、ここをたどれば出られるっていう一本の線。
それがアリアドネの糸。名前だけ覚えるんじゃなくて、好きな男を死なせないために、帰り道を物理で渡した女の知恵って覚えると一発で入る。
ハル
ハル
糸一本でだいぶ頼れるの笑う。
ユウマ
ユウマ
みんな勇気だ筋肉だって盛り上がる中、アリアドネだけは勝った後どうやって帰るの? を見てる。ここが強い。飲み会でもそうじゃん。
場を荒らして笑い取るやつより、帰りのタクシー呼ぶやつが一番えらい。怪物退治の前に、まず家に帰れる道を作れ。アリアドネ、地味だけど最強。

怪物退治より、帰れるかが本番

ユウマ
ユウマ
いよいよテセウスはラビュリントスに入る。入口に糸を結ぶ。中は暗い。石の壁が冷たい。
曲がり角だらけ。右に曲がったのか左に曲がったのか、すぐ分からなくなる。奥のほうで牛頭がフン、フンって鼻を鳴らしてる。聞こえたら普通に足すくむやつ。
でもテセウスの手元だけ見ると地味なんよ。糸をスルスル出す。曲がる。スルスル出す。また曲がる。派手なこと何もしてない。
でもこの地味さが生き残りの差。奥で待ってるミノタウロスは、牛の頭、人間の体、力は怪物級。アテネの若者を食ってきた相手。テセウスはそいつを倒す。ここはちゃんと英雄。一回拍手。
だいすけ
だいすけ
そこは普通にかっけえ。
ユウマ
ユウマ
でも問題。怪物倒したテセウス、次に何したと思う?
あおい
あおい
雄叫び?
だいすけ
だいすけ
角で記念撮影?
ハル
ハル
迷宮に星一つレビュー?
ユウマが糸を巻くふりをする。
ユウマ
ユウマ
糸をたどって帰った。地味! でもこれが一番えらい! 怪物に勝っても出口がなきゃ、ただの迷宮内チャンピオンなんよ。ベルト巻いたまま地下で餓死する王者、悲しすぎるだろww
生きて外に出たから、アテネの若者を差し出す流れが止まる。勝利を外へ持ち帰ったから町が救われる。つまり攻略法は、殴る前に帰り道を作ったこと。
腕力は見せ場、糸が本体。テセウス、ミノタウロスには拳で勝ったけど、神話として勝った理由は糸なんよ。
あおい
あおい
糸が本体、めっちゃ覚えやすいwww

最後の帆ミスで父ちゃん沈む

ユウマ
ユウマ
で、ここまでならハッピーエンドじゃん。ミノタウロス倒した。迷宮から出た。アリアドネも連れてクレタを脱出した。
ちなみにその後、アリアドネはナクソス島に置き去りにされる流れが多い。恩人なのに扱い雑すぎる。ただその後、酒の神ディオニュソスの妻になる話になる。恋の後始末、荒いけど神話はすぐ次の酒に行く。
ハル
ハル
恩人の扱い、雑すぎて引くわ。
ユウマ
ユウマ
本題は帰りの船。出発前、テセウスは父アイゲウスと約束してた。生きて帰れたら船の帆を白に替える。死んだら黒い帆のまま。
遠くの海からでも、父ちゃんが息子の生死を見分けられる合図。白なら生きてる。黒なら死んだ。めちゃくちゃ分かりやすい。
じゃあ問題。怪物倒して、迷宮から出て、国を救って帰るテセウス、最後に何をやらかしたと思う?
だいすけ
だいすけ
既読無視?
あおい
あおい
港間違えた?
ハル
ハル
寝坊?
ユウマが黒い帆を見上げる顔をする。
ユウマ
ユウマ
帆を白に替え忘れた。そこ!? そこ忘れる!? ミノタウロス倒して、迷宮から帰って、若者の年貢を止めて、最後の確認欄だけ空欄。
父アイゲウスは黒い帆を見る。息子は死んだと思う。絶望して海へ身を投げる。そこからエーゲ海の名が来たって語られる。
だいすけ
だいすけ
勝ってるのに父ちゃん沈むの、重すぎww
ユウマ
ユウマ
この落差がえぐい。迷宮ではアリアドネの糸で帰れたのに、海では白い帆を替え忘れて父ちゃんが死ぬ。殴って勝つことより、帰り道と最後の連絡を忘れた瞬間に全部沈む。
さっきの糸と、ここでの帆。この二つがテセウスの話の本体なんよ。
グラスの氷がカランと鳴る。
ユウマ
ユウマ
おまけにテセウスは後世でもネタにされる。テセウスの船っていう有名な話があって、アテネが記念に残した船の古い板を少しずつ新しい板に替えていく。
全部替わったら、それは同じ船って言えるのか、っていう考えごと。怪物退治だけじゃなく、名前が哲学のネタにまで残ってる。
だから締めはこれ。筋肉で怪物は倒せる。でも人生を救うのは入口の糸と帰りの白い帆。勝って、帰って、伝えて初めて英雄。忘れたら神話でも父ちゃんが海にドボン。
あおい
あおい
最後の最後で確認って大事すぎるwww

暗記用

これだけ覚えたら、教養人の顔で会話に入れるフレーズ

口に出す時は、言葉と読みをセットで覚えると強い。

  1. ラビュリントスらびゅりんとす

    ミノタウロスがいる迷宮。迷った案件のたとえで使える。

  2. ミノタウロスみのたうろす

    牛の頭を持つ怪物。テセウス回の主役級ワード。

  3. アリアドネの糸ありあどねのいと

    帰り道を確保する命綱。問題解決の比喩として今も使いやすい。

  4. テセウスてせうす

    怪物を倒すだけでなく、帰る段取りまで問われる英雄。

よくある質問

Q. ミノタウロスって何?
A. 牛の頭と人間の体を持つ人食い怪物。クレタ王妃パシパエが、ダイダロスの作った木の牝牛に入って牡牛とセックスして生まれた。
Q. アリアドネの糸って何がすごいの?
A. ミノス王の娘アリアドネがテセウスに渡した脱出用の糸。入口に結んで進み、帰りにたどるだけ。地味だけど、勝利を外へ持ち帰る命綱。今も難問を解く手がかりの意味で使う。
Q. なんでアテネは若者をクレタに送ったの?
A. ミノスの息子アンドロゲオスがアテネ絡みで死に、怒ったミノスがアテネを攻めて屈服させたから。アテネは負けて、若い男女を怪物への生贄として差し出すことになった。
Q. テセウスの話のいちばん大事な所は?
A. 怪物を倒す腕力だけじゃ足りない所。迷宮から戻る糸と、父に生存を知らせる白い帆までが本番。勝って、帰って、伝えて初めて英雄。

次に読む

もし現代でやったらコンプライアンス違反疑惑度★★★★★

退治より置き去りが普通に犯罪

  • 刑法190条死体や遺骨などを損壊し、または遺棄する行為に関する規定(死体損壊等)。
  • 刑法199条人を殺した者に科される罪の規定(殺人)。
  • 刑法210条過失によって人を死亡させた行為に関する規定(過失致死)。
  • 刑法218条高齢者や幼児、病者などを保護する責任のある者が、その保護を怠り遺棄等を行う行為に関する規定。
  • 刑法219条遺棄などの行為によって人を死亡させ、または傷害した場合に関する規定。
  • 刑法220条不法に人を捕らえ、または閉じ込める行為に関する規定(逮捕監禁)。
  • 刑法223条暴行や脅迫を用いて、義務のないことを行わせるなどの行為に関する規定(強要)。
  • 民法709条故意または過失によって他人の権利を侵害した者に損害賠償責任を負わせる規定(不法行為)。

元になった物語の出来事に、現代日本の実在する法令を当てはめたらどの条文に触れうるか、という読み物としての見立てです。条文番号だけを並べています。

入試に出た

この作品が実際の大学・高校入試でどう問われたかを、出典を明記して紹介します。

  • イギリス OCR Aレベル ラテン語(韻文の設定教材)ラテン語(韻文読解)

    出典: カトゥッルス 詩64「アリアドネの嘆き」(おおむね124行から264行)

    テセウスに置き去りにされたアリアドネが、ナクソス島の浜辺で去っていく船を見つめ、裏切り(ラテン語 perfidia)を激しく嘆き呪う一連の場面。英国の中等後期資格 OCR Aレベル ラテン語の韻文設定教材として、2023年度と2024年度はおおむね124行から264行が指定された。ラテン語本文の内容把握に加え、アリアドネの心情の動き、テセウスの不実という主題、そして彼女の呪いがテセウスの帆の替え忘れと父アイゲウスの死へつながる因果を、本文に即して読み取らせる。

    答えの要点:まず筋を押さえる。アリアドネは糸の知恵でテセウスの怪物退治と迷宮脱出を成功させた恩人なのに、帰る途中ナクソス島で眠っている間に置き去りにされる。設問の核心は、目覚めて船を見送るアリアドネの心情と、テセウスの不実(perfidia、約束や恩を裏切る不誠実さ)という主題である。アリアドネは、愛と献身を踏みにじられた怒り、絶望、そして相手への呪いを長い独白で吐き出す。読み取りの要点は三つ。第一に、恩を仇で返された者の悲哀。第二に、女の犠牲の上に英雄の手柄が成り立つという皮肉。第三に、彼女がテセウスとその一族に下す呪いである。カトゥッルスはこの呪いが効いた形で物語を閉じる。テセウスは、勝って帰れば白い帆に替えるという父との合図を忘れ、黒い帆のまま戻り、父アイゲウスは息子の死を信じて身を投げる。つまりアリアドネの嘆きと帆の替え忘れによる父の死が一続きの因果だと示せると、英雄テセウスの負の側面という主題で説明でき、正解になる。表現の面では、浜辺に取り残された一人の女という視覚像、直接話法による長い嘆き、裏切りを示す語の繰り返しが感情を高めている点に触れられるとよい。

腕試し(オリジナル問題)

過去問の丸写しではなく、この記事のために作った自作の練習問題です。腕試しにどうぞ。

問1「アリアドネの糸」という言葉は、現代では比喩としてどういう意味で使われるか。由来となった神話の場面に触れて説明しなさい。

問2「テセウスの船」と呼ばれる思考実験の内容を簡潔に説明し、それが問いかけている哲学的テーマを答えなさい。

問3テセウス神話で、アテネ王アイゲウスが海に身を投げてしまった理由を、出発前の約束に触れて説明しなさい。また、その死にちなんで名付けられたと伝えられる海の名を答えなさい。