第1夜 ギリシャ神話 その2

プロメテウスとパンドラの箱。火の代金は毎日肝臓払い

人類に火をプレゼントした男の給料、毎日肝臓を鷲に食われる刑。しかも肝臓は夜に戻る。翌朝また食われる。文明の始まり、福利厚生がクソ地獄すぎる。

火をくれた先読み兄貴

焼き鳥の煙が上がる。
ユウマ
ユウマ
でさ、今日はプロメテウス。こいつはティタン族っていう、前に話したクロノス側の古い神の一族なんだけど、なぜか人間の味方をする変な兄貴。
名前の意味がもうすごくて、「先に考える男」。飲み会に一人いる、終電と二軒目の地雷を先に読んでるやつ。
あおい
あおい
神なのに人間側なの、珍しくない?
ユウマ
ユウマ
珍しい。しかも相手がゼウス。前に牛になったり白鳥になったり黄金の雨になったりしてセックスしに行った、あの最高神。
権力も変身レパートリーも多すぎる男。プロメテウスはそのゼウス相手に、まず肉の分け前で詐欺みたいなトリックをする。
だいすけ
だいすけ
最高神に詐欺すんなよwww
ユウマ
ユウマ
牛を二つの山に分けるんよ。片方はうまい肉を汚い皮で包んだ山。もう片方は骨を白い脂身でピカピカに包んだ山。で、ゼウスに「好きな方どうぞ」って言う。
見た目だけなら脂身の山がうまそうなわけ。ゼウス、そっち選ぶ。開けたら骨。
ハル
ハル
それは怒るわ。普通に怒る。
ユウマ
ユウマ
ここから、神へのお供えは骨を焼けばいいって由来になる。人間は肉を食える。神には骨の煙。プロメテウス、会社の経費精算で一番うまい抜け道見つけた人みたいな顔してる。
だいすけ
だいすけ
神様に領収書の骨だけ出すなwww でも人間側からすると最高のケチり方。
ユウマ
ユウマ
ゼウスはキレる。「じゃあ人間から火を取り上げるわ」ってなる。火がないと料理も鍛冶も暖房も夜の明かりもない。文明、いったん冷凍保存。そこでプロメテウスがまた動く。
で、こいつ次に何したと思う?ゼウスが管理してる火だよ。相手は最高神。監視もある。普通なら土下座か交渉じゃん。
あおい
あおい
こっそり松明持って逃げる?
だいすけ
だいすけ
ゼウスに偽物の火を渡す?
ハル
ハル
反省文を書いて許してもらうとか。
氷がグラスの底で鳴る。
ユウマ
ユウマ
ウイキョウっていう植物の茎の中に火種を隠して盗む。中が空洞で、火を持ち運べる。見た目はただの草。
中身は文明の起爆剤。ゼウスの金庫からライターを抜いて、ポケットじゃなく野菜の茎に隠す男。
だいすけ
だいすけ
隠し場所が渋すぎるwww
ユウマ
ユウマ
これがプロメテウスの火。人間は焼いて食べるし、金属を溶かすし、夜に集まって話す。
つまり俺らがこうやって焼き鳥つまんで神話で笑ってるのも、始まりをたどると草の茎に入った盗品の火。章のオチとしては、文明のスタートボタン、だいぶ犯罪のにおいがする。

肝臓、翌朝リセット刑

ユウマ
ユウマ
当然ゼウスは黙ってない。肉でだまされ、火を盗まれ、人間が便利になってる。
最高神のメンツが床に落ちてる。そこでプロメテウスへの罰が来るんだけど、これがギリシャ神話の罰ランキングでもかなり上位に嫌。
あおい
あおい
火あげただけでしょ?何されるの?
ユウマ
ユウマ
カウカソス山っていう遠い山に鎖で磔。身動き取れない。そこに鷲が毎日飛んできて、プロメテウスの肝臓を食う。毎日。で、夜になると肝臓が再生する。翌朝また鷲。
ハル
ハル
嫌すぎる。発想がひどい。
だいすけ
だいすけ
肝臓の定期便じゃん。誰も頼んでないクソサブスク。
ユウマ
ユウマ
しかもこれ、現代医学的にも変なところで当たってるんよ。肝臓って本当に再生力が強い臓器。
もちろん神話みたいに毎晩フルで新品とはいかないけど、体の中でもかなり戻る力がある。古代の人がそれを観察で知ってたのか、偶然なのかは議論あるけど、罰のチョイスが妙にリアルで嫌なんだよ。
あおい
あおい
神話の拷問が医学っぽいの怖い。
ユウマ
ユウマ
怖い。しかも死ねない。死んだら終わるけど、終わらせない。毎朝「おはよう、肝臓の時間だぞ」って鷲が来る。ブラック企業でもタイムカード見るだけで済むのに、こっちは臓器カード切られる。
ハル
ハル
言い方最悪だけど分かる。
ユウマ
ユウマ
で、ここで名前の重みが来る。「先に考える男」だから、人類の未来は見えてたかもしれない。火があれば人間は強くなる。
神に近づく。科学も技術も始まる。英語で Promethean って言うと、人類のために神に逆らう、危ないけど偉大な創造の火みたいなニュアンスになる。
だいすけ
だいすけ
急にかっこいいな。肝臓食われてるのに。
ユウマ
ユウマ
メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』の副題も The Modern Prometheus。死んだものに命を作ろうとする科学者の話ね。神の領域に人間が手を伸ばす感じ。
プロメテウスは、ただの火泥棒じゃなくて「人間がやりすぎる時の象徴」まで背負わされてる。荷物多すぎ。肝臓も多すぎ。
あおい
あおい
肝臓まで象徴にしなくていいのに。
ユウマ
ユウマ
救いもある。ずっと後でヘラクレスが通りかかる。前に話した、十二の功業で化け物処理しまくったあの筋肉。
そいつが鷲を矢で射ち落として、プロメテウスを解放する。ギリシャ神話、困ったらまたあの筋肉が仕事してる。
だいすけ
だいすけ
ヘラクレス、便利屋すぎるwww
ユウマ
ユウマ
でも解放までが長い。プロメテウスの苦しみは、人間が火を持つ代金みたいに続く。火はただでもらった感じだけど、請求書は山の上に届いてた。
決めの一言はこれ。文明の光、あの人の肝臓で明るくなってる。

全部盛り美女という罠

ユウマ
ユウマ
で、ゼウスはプロメテウスだけじゃなくて人類側にも罰を送る。ここが性格悪い。直接雷を落とすとかじゃない。「贈り物」を送る。嫌がらせをプレゼント包装するタイプの権力者。
ハル
ハル
一番たち悪い。断りにくいやつ。
ユウマ
ユウマ
ゼウスは神々を集めて、最初の女パンドラを作らせる。名前の意味は「すべての贈り物」。美しさ、魅力、手先の器用さ、言葉のうまさ、いろんな神が盛る。
全部入り。なのに中身は人類への罠。福袋って書いてあるけど、開けたら請求書しか入ってない。
あおい
あおい
名前が怖い。全部の贈り物って、もう怪しい。
ユウマ
ユウマ
で、送り先が大事。プロメテウスには弟がいる。エピメテウス。名前の意味は「後から考える男」。兄が先に考える男、弟が後から考える男。もうこの兄弟、名前で役割がバレてる。
だいすけ
だいすけ
親、命名でネタバレしすぎだろwww
ユウマ
ユウマ
プロメテウスは弟に言ってた。「ゼウスからの贈り物は受け取るな」。これ、兄として完璧な忠告。相手がゼウスだぞ。前科が神話何本分もある。普通は玄関のインターホン鳴った瞬間に居留守。
ハル
ハル
ゼウス便は受取拒否でいい。
ユウマ
ユウマ
でもエピメテウスはパンドラを見る。美しい。神々の全部盛り。はい、受け取る。後から考える男、ちゃんと後から考える。遅い。
あおい
あおい
名前通りすぎる。
ユウマ
ユウマ
ここでゼウスの狡さがすごい。プロメテウス本人に送っても警戒される。だから弟に送る。考えなしの弟に、拒否しづらい美しい贈り物を送る。
人間の弱いところを全部読んでる。最高神、浮気だけじゃなく心理戦も強い。嫌な強さ。
だいすけ
だいすけ
神々の営業部エースみたいな売り方すな。
ユウマ
ユウマ
パンドラが悪い女って単純に見ると薄いんだけど、神話のつくりとしては「贈り物そのものが罠」なんよ。美しさも魅力も、ゼウスが仕込んだパッケージ。
火を手に入れて調子づき始めた人類に、今度は内側から面倒を入れる。雷じゃなくて家庭に入ってくる災い。
ハル
ハル
最高神が自分の手を汚さないのが嫌だな。
ユウマ
ユウマ
そう。しかもこの話があるから、後の時代で「パンドラの箱を開ける」って言い方が、取り返しのつかない問題を開いてしまうって意味になる。
英語でも open Pandora's box って超定番。会議で「その話、開けたら全部署巻き込むぞ」ってやつ。
あおい
あおい
あ、パンドラの箱ってそこなんだ。
ユウマ
ユウマ
まだ箱は開いてない。今はゼウスがリボン結んでる段階。章の最後に言うなら、人類への復讐は雷じゃなくて、考えなしの弟の玄関から入ってきた。

希望は救いか、最後の災いか

テーブルの上で誰かがふたを閉める。
ユウマ
ユウマ
で、いよいよパンドラが容器を開ける。ここ、日本語だと「箱」って言うけど、古い話では本当は大きな壺。ピトスっていう貯蔵用の壺ね。
後の時代の翻訳で箱っぽく広まった。つまり世界で一番有名な箱、実は箱じゃない。
だいすけ
だいすけ
箱じゃないのに箱として有名なの、看板メニュー詐欺だろwww
ユウマ
ユウマ
でも「パンドラの壺」だとちょっと居酒屋の焼酎キープ感が出るから、箱で広まった気持ちも分かる。で、その壺の中には病気、苦労、老い、争い、ありとあらゆる災いが入ってる。
ふたを開けた瞬間、それが一斉に飛び出す。人類の生活、ここから一気にハードモード。
あおい
あおい
開けちゃダメなやつって分かってて開けたの?
ユウマ
ユウマ
そこは語りがいろいろあるけど、好奇心が動いたって形で語られることが多い。で、ゼウスの嫌らしさはそこ。
「開けるな」って言われたものほど気になるって、人間なら知ってるじゃん。冷蔵庫のプリンに「食べるな」って書かれてたら、逆に存在感が増す。
ハル
ハル
食べるな。そこは食べるな。
ユウマ
ユウマ
開けたら災いが飛び出す。慌ててふたを閉める。で、底に一つだけ残る。それがエルピス。希望。ここで急に話が深くなる。希望が残ったから、人間は苦しい世界でも生きていける。そう読むと救い。
だいすけ
だいすけ
やっといい話じゃん。
ユウマ
ユウマ
でも逆の読みもある。そもそも壺に入ってたのは災いのセットでしょ。そこに希望も入ってたなら、希望も災いの一つなんじゃないかって話。
つらいのに「いつか良くなるかも」って思うから、苦しみが長引く。希望って救命具にもなるけど、沼から出られない理由にもなる。
あおい
あおい
え、急に怖い。希望なのに。
ユウマ
ユウマ
飲み会でこれ言うと、だいたい二派に分かれる。希望があるから人間はやれる派と、希望があるから地獄を我慢しちゃう派。
ギリシャ神話のえぐいところは、どっちにも読めるように置いてくるところ。ゼウスの嫌がらせ、余韻まで長い。
ハル
ハル
教育現場で扱うには重いな。
ユウマ
ユウマ
ただ、確かなのは「パンドラの箱」は開けたら戻らないものの代表になったってこと。会社の隠してた問題、家族の沈黙、SNSで燃える話題。
一回ふたを開けたら、災いはもう部屋中にいる。閉めても戻らない。
だいすけ
だいすけ
居酒屋の会計ミスも、開けたら戻らない時ある。
ユウマ
ユウマ
で、天丼回収ね。火は草の茎に隠して盗めた。でも災いは壺から出たら隠せない。人類は火で明るくなった分、見たくなかったものまで見えるようになった。
最後の画はこれ。文明、あの人の肝臓の分割払いで動いてる。その底で、希望だけがまだふたの内側に座ってる。

暗記用

これだけ覚えたら、教養人の顔で会話に入れるフレーズ

口に出す時は、言葉と読みをセットで覚えると強い。

  1. プロメテウスぷろめてうす

    「先に考える男」。人類に火を渡して、肝臓で払い続けた神。

  2. パンドラの箱ぱんどらのはこ

    開けたら戻せない災いの詰め合わせ。世界共通の慣用句。

  3. エピメテウスえぴめてうす

    「後から考える男」。兄の忠告を無視して贈り物を受け取る弟。

  4. エルピス(希望)えるぴす

    壺の底に残った最後の一つ。救いか災いか、今も議論が続く。

よくある質問

Q. パンドラの箱とは何か
A. ギリシャ神話でパンドラが開けた容器のこと。中から病気や苦労などの災いが飛び出し、希望だけが残った。古い話では箱ではなく壺だった。
Q. プロメテウスの火とは何か
A. プロメテウスがゼウスから盗んで人類に与えた火のこと。料理、鍛冶、明かりなど文明の始まりを象徴する。
Q. なぜプロメテウスは罰を受けたのか
A. ゼウスをだまして供物の分け方を人間有利にし、さらに火を盗んで人類に渡したから。罰として山に縛られ、毎日鷲に肝臓を食われた。
Q. パンドラの箱に希望が残った意味は何か
A. 希望が残ったから人間は苦しみに耐えられるという読みと、希望も苦しみを長引かせる災いだという読みがある。どちらにも取れるのが面白い。
Q. パンドラの箱はなぜ箱と言われるのか
A. 原典ではピトスという大きな壺だったが、後世の翻訳で箱として広まり、そのまま慣用句になった。

次に読む

もし現代でやったらコンプライアンス違反疑惑度★★★★

盗んだ側より罰した側の方が重い

  • 刑法130条正当な理由なく他人の住居や建物に侵入する行為などに関する規定(住居侵入等)。
  • 刑法204条人の身体を傷害した者を処罰する規定(傷害)。
  • 刑法220条不法に人を捕らえ、または閉じ込める行為に関する規定(逮捕監禁)。
  • 刑法235条他人の財物を盗み取る行為に関する規定(窃盗)。
  • 鳥獣保護管理法鳥獣の保護・管理と狩猟の適正化を図る法律。

元になった物語の出来事に、現代日本の実在する法令を当てはめたらどの条文に触れうるか、という読み物としての見立てです。条文番号だけを並べています。

入試に出た

この作品が実際の大学・高校入試でどう問われたかを、出典を明記して紹介します。

  • 英国OCR GCSE 古典文明(J199/12)Women in the Ancient World(古代世界の女性)

    出典: ヘシオドス『神統記』『仕事と日』のパンドラ神話

    パンドラが神話の中でどんな女性像として描かれているか、その否定的な性格づけは誰が作ったものかを、資料に基づいて論じさせる(知識と分析の配点に分かれた論述)

    答えの要点:核はパンドラの成り立ち。プロメテウスが火を盗んだことへの、人類側への罰としてゼウスが命じて作らせた「最初の女」で、名前は「すべての贈り物」の意。美しさや話術と一緒に、欺く心まであらかじめ神々に仕込まれている。つまり災いを開けてしまう性質は本人の落ち度ではなく神々の設計で、壺(後世は箱)を開けて災いが世界に出て、希望だけが残った。ヘシオドスがこの神話で女性を災いの起源として描いた、という視点まで書ければ論述の骨格になる。

  • 大学入試センター試験 世界史B2005ほか世界史

    出典: ヘシオドス『労働と日々(仕事と日)』『神統記』

    古代ギリシア文化の基本問題として、叙事詩人ヘシオドスと作品の対応が繰り返し問われる。『労働と日々』『神統記』の作者と内容を正しく結びつけられるかの定番出題

    答えの要点:ヘシオドス(前700年ごろ)の代表作は2つ。『神統記』はカオスから始まる神々の系譜を整理した詩で、プロメテウスの火盗みもここに歌われる。『労働と日々』は勤勉な労働を称える教訓詩で、パンドラの物語や「五時代」の説話を含む。ホメロス(『イリアス』『オデュッセイア』=英雄の叙事詩)との区別、つまり「ホメロスが英雄、ヘシオドスが神々の系譜と労働」という対応を押さえれば正解できる。

腕試し(オリジナル問題)

過去問の丸写しではなく、この記事のために作った自作の練習問題です。腕試しにどうぞ。

問1プロメテウスとエピメテウスの名はそれぞれ「先に考える者」「後から考える者」を意味する。この名前の対比が、パンドラをめぐる物語の展開でどう効いているか説明せよ。

問2「パンドラの箱」は原典では箱ではない。原典で災いが入っていた容器は何か。また容器の底に最後に残ったものは何で、それをめぐってどんな解釈の対立があるか。

問3ゼウスがプロメテウスに科した刑罰の内容を述べ、その刑罰が「終わらない」仕組みを説明せよ。また彼を解放した英雄は誰か。