第1夜 ギリシャ神話 その5

ハデスとペルセポネ。冬の正体は母ちゃんのガチギレ

冬が存在する理由、神話だと娘をさらわれた母親が仕事を全部止めたから。作物も育たない。人類も神々も困る。世界規模の母ちゃんストライキ。火元は地下勤務おじさんのクソ婚活。ゼウスのちんこ暴走回ほど派手じゃないだけで、初手は普通に拉致。

冥界のまじめ男、最悪の婚活

黒ビールの泡が沈む。
ユウマ
ユウマ
今日はハデスとペルセポネ。まずハデスは冥界の王。死んだ人が行く地下の世界の管理者ね。
ゼウス、ポセイドンと兄弟で、ゼウスが空、ポセイドンが海、ハデスが地下を担当。会社で言うと、みんなが見ない地下システムを一人で見てる管理部門。
だいすけ
だいすけ
地味だけど止まったら終わるやつ。
ユウマ
ユウマ
そう。しかもハデス、ギリシャ神話の男神の中ではかなりまじめ寄り。前に話したゼウスみたいに牛や白鳥になって浮気しに行くタイプじゃない。
地下勤務で出会いゼロ。職場が冥界だから、マッチングアプリの現在地がずっと地獄。
あおい
あおい
それは出会えないwww
ユウマ
ユウマ
で、ハデスが好きになったのがペルセポネ。豊穣の女神デメテルの娘。若い女神で、野原で花摘みしてる。母は作物を育てる超重要女神。娘はその大事な一人娘。ここにハデスが結婚したいって思う。
ハル
ハル
普通に話し合ってほしい。
ユウマ
ユウマ
普通に話し合えばいいじゃん。でも神話はそこで社会常識を置いてくる。ハデスはゼウスに相談する。
ゼウスはペルセポネの父親でもある。で、ゼウスが「まあ連れてけば」みたいに黙認する。父親が娘本人にも母親にも確認せず、地下勤務の親戚に許可出す。
だいすけ
だいすけ
父親の承認フロー終わってるだろ。
ユウマ
ユウマ
で、ペルセポネが野原で花を摘んでると、地面が割れる。黒い馬の戦車でハデス登場。そのままペルセポネを冥界に連れていく。求婚、デート、相性確認、全部カット。いきなり地下直行。
あおい
あおい
怖すぎ。婚活じゃなくて事件じゃん。
ユウマ
ユウマ
事件。結婚目的の連れ去り。ハデスは相対的にまじめって言われがちだけど、この入口は完全にアウト。
まじめ男の婚活が拉致なら、もう地下の治安が終わってる。ゼウスやポセイドンがひどすぎて「三兄弟で一番マシ」に見えるだけで、初手は黒い戦車で拉致。比較対象が地獄なだけ。
ハル
ハル
相対評価の怖さだな。
ユウマ
ユウマ
しかもここで大事なのは、黒幕にゼウスがいること。ハデスが勝手にやっただけじゃなく、父ゼウスが許可してる。前に浮気シリーズで見たあの男、家庭内の火種にもちゃんと油を注ぐ。
だいすけ
だいすけ
ゼウス、火事の原因でしか出てこないなwww
ユウマ
ユウマ
ペルセポネは冥界へ。地上では誰もすぐ分からない。母デメテルだけが、娘が消えたことに気づく。
ここから冬の話が始まる。章の決めはこれ。四季の由来、最初の一手はおじさんの最悪すぎる地下婚活。

母ちゃん、世界を止める

ユウマ
ユウマ
デメテルは娘を探す。九日間、松明を持って世界中を歩く。食べない、休まない、ただ探す。
豊穣の女神だから、本来は大地に実りを与える役なんだけど、そんな仕事してる場合じゃない。娘がいない。
あおい
あおい
それは探すよ。娘だもん。
ユウマ
ユウマ
で、十日目に太陽神ヘリオスが出てくる。太陽だから上から全部見てる。目撃証言として強い。ヘリオスが言う。
「連れて行ったのはハデス。ゼウスも認めてた」。これ聞いたデメテル、完全にキレる。
ハル
ハル
そりゃキレる。父親公認は無理。
だいすけ
だいすけ
家庭内の稟議が最悪すぎる。娘の人生を父親とおじさんで勝手に決めるな。
ユウマ
ユウマ
ここでデメテルの怒り方がすごい。ゼウスに泣きつくだけじゃない。豊穣の仕事を止める。畑が実らない。
穀物が育たない。人間は飢える。人間が飢えると、神々へのお供えも止まる。つまり神々も困る。
あおい
あおい
人質が人間じゃなくて神々側になるの?
ユウマ
ユウマ
そう。デメテルのストライキは効く。会社で一番静かな部署の人が急にシステム止めたら、全員が青ざめる感じ。
ゼウスが雷持ってても、パンが焼けないと祭壇に煙が上がらない。プロメテウス回で神々は骨の煙をもらってたけど、その骨を焼く以前に牛が育たない。
だいすけ
だいすけ
神々、食い扶持を握られてるwww
ユウマ
ユウマ
ここがこの神話の面白いところ。デメテルは武器で勝ってない。季節と食料を握ってる。
怒った母親が世界のインフラだった。ゼウスがどれだけ偉そうでも、人間界が干上がると神界もじわじわ干上がる。
ハル
ハル
豊穣の女神って、想像より権力あるな。
ユウマ
ユウマ
ある。生き物は食べないと終わるからね。しかもデメテルはただの過保護じゃない。
娘が本人の同意なしに連れて行かれ、父親が勝手に許した。怒りの理由が太い。だから世界が止まっても、聞き手が「まあ止めるよな」ってなる。
あおい
あおい
ゼウスが謝ればいいのに。
ユウマ
ユウマ
それな。でもゼウスは最初から謝罪じゃなくて調整に入る。人類が飢え、供物が止まり、神々が困る。
ここでようやく「ペルセポネ返さないとまずい」ってなる。娘のためじゃなく、システム障害として動くのがゼウスっぽい。
だいすけ
だいすけ
最高神、謝罪会見が下手そう。
ユウマ
ユウマ
で、ゼウスは使者としてヘルメスを冥界に送る。ヘルメスは神々の伝令役で、境界を行き来できる身軽な神。地下まで「返して」って言いに行く。
章の決めはこれ。世界を止めたのは雷じゃない、母ちゃんの無言の欠勤。

ざくろ数粒で地下契約

赤いカクテルの氷がゆっくり溶ける。
ユウマ
ユウマ
ヘルメスが冥界に降りて、ハデスに「ペルセポネを返せ」って伝える。デメテルのストライキで世界が限界だからね。ハデスもさすがに返す流れになる。でも帰す直前に、ざくろの実を勧める。
ハル
ハル
そこでもう嫌な予感しかしない。
ユウマ
ユウマ
ギリシャ神話には、冥界の食べ物を食べた者は冥界に属するってルールがある。ペルセポネはざくろの粒を食べてしまう。粒数は伝承で揺れるけど、数粒。
たった数粒で完全帰宅ができなくなる。食べログの一口レビューで人生の住所が変わる。
だいすけ
だいすけ
ざくろの契約力強すぎるwww
ユウマ
ユウマ
で、こいつら次にどう決着つけたと思う?デメテルは返せって言ってる。ハデスは食べたから冥界のものだって言える。ゼウスは世界を戻したい。全員めんどくさい。
あおい
あおい
ざくろ食べたのをなかったことにする?
だいすけ
だいすけ
ハデスが土下座して全部返す?
ハル
ハル
母親が冥界まで迎えに行くとか。
グラスを持つ手が止まる。
ユウマ
ユウマ
一年の一部だけ冥界で暮らす契約になる。よく語られる形だと三分の一、伝承によっては半分。つまりペルセポネは完全には地上に戻れない。数粒のざくろで、年間スケジュールに地下勤務が入る。
あおい
あおい
ひどい。食べただけなのに。
ユウマ
ユウマ
このざくろが美術や文学でめちゃくちゃ強いモチーフになる。赤い粒が血みたいでもあり、種が多いから命や実りっぽくもあり、でもここでは冥界の縛りでもある。
ロセッティっていう画家の《プロセルピナ》でも、ローマ名のペルセポネがざくろを持ってる。きれいなのに、見てると逃げられない感じがする絵。
ハル
ハル
ざくろ一個で意味が重すぎる。
ユウマ
ユウマ
ちなみにハデスのローマ名はプルート。冥王星の Pluto の名前もそこから来てる。地下の富、見えない世界、死者の国。
英語で Hades って言うと、神本人だけじゃなく死後の世界そのものも指すことがある。名前がもう地下全体を背負ってる。
だいすけ
だいすけ
地下勤務の肩書きがデカすぎる。
ユウマ
ユウマ
ざくろ数粒で季節が決まり、神の名前が星まで飛ぶ。ギリシャ神話って、食べちゃダメなものを食べた瞬間の重さが異常。章の決めはこれ。ペルセポネの人生、ざくろの粒で年間契約にされた。

冬は娘ロス、春は里帰り

ユウマ
ユウマ
で、この契約が四季の由来になる。ペルセポネが地上でデメテルと一緒にいる間、母はうれしい。大地は実る。
春が来て、花が咲いて、夏や収穫の季節につながる。娘が帰ってくると世界がちゃんと動く。
あおい
あおい
春って里帰りなんだ。かわいいけど切ない。
ユウマ
ユウマ
逆にペルセポネが冥界に戻る時期、デメテルは悲しむ。実りが止まる。寒くなる。
冬。つまり冬は、母ちゃんが娘ロスで仕事の出力を落としてる状態。季節を気象じゃなくて家族の感情で説明するの、神話の強さだよね。
だいすけ
だいすけ
冬の寒さ、急に家庭事情に見えてきた。
ハル
ハル
理科の授業では言えないけど、覚えやすい。
ユウマ
ユウマ
ペルセポネもずっと被害者のまま消えるわけじゃない。後の神話では冥界の女王としてかなり堂々と出てくる。
前に話したオルフェウスの回で、死んだ妻を連れ戻しに歌で冥界を泣かせる男がいたでしょ。その歌を聴いて心を動かされた王妃が、このペルセポネ。
あおい
あおい
あの冥界で泣いた人か。つながるんだ。
ユウマ
ユウマ
つながる。さらわれた娘が、いつの間にか死者の国の女王として座ってる。神話はそこを一枚の絵で固定しない。
痛い始まりを持った人が、その場所で権威も持つ。だから現代でもペルセポネは、季節の帰還とか、地下から戻る力のメタファーとして語られる。海外の作品でも人気がある。
だいすけ
だいすけ
ただの誘拐話で終わらないんだな。
ユウマ
ユウマ
もう一個、デメテルが娘を探す途中でエレウシスって場所に滞在した話があって、そこからエレウシスの秘儀っていう古代ギリシャ最大級の秘密儀式につながる。何をしたかは秘密だから詳しくは分からない。
でも生と死、実りと再生に関わる、めちゃくちゃ重要な祭りだった。
ハル
ハル
秘密儀式って言われると急に気になるな。
ユウマ
ユウマ
気になるけど、古代の参加者がちゃんと秘密を守ったから、今も全部は分からない。すごいよね。現代なら一日で誰かが投稿して炎上してる。
だいすけ
だいすけ
エレウシスの秘儀、絶対トレンド入りするwww
ユウマ
ユウマ
ハデスもこの話以降、完全な悪役ってだけじゃなくなる。連れ去りはアウト。でも冥界の王としては仕事をして、ペルセポネは王妃になる。
そこが気まずい。神話は「いい人悪い人」で分けるとすぐグラスが割れる。
あおい
あおい
ゼウスはだいぶ悪い側じゃない?
ユウマ
ユウマ
それはそうwww。天丼で言うと、またゼウスが家族会議を壊してる。でも最後の画はゼウスじゃない。
冬の畑、冷たい土、母が娘を待ってる時間。そして春、娘が戻ると地上が一気にほどける。冬は母の悲しみ、春は娘の里帰り。

暗記用

これだけ覚えたら、教養人の顔で会話に入れるフレーズ

口に出す時は、言葉と読みをセットで覚えると強い。

  1. ペルセポネぺるせぽね

    花摘み中にさらわれて冥界の女王になった娘。四季の由来の主役。

  2. デメテルでめてる

    豊穣の女神。娘を奪われて仕事を全停止し、世界を冬にした母。

  3. ざくろの実ざくろのみ

    冥界の食べ物を口にしたら戻れないルール。数粒で契約成立。

  4. エレウシスの秘儀えれうしすのひぎ

    デメテル神話から生まれた、古代ギリシャ最大の秘密の儀式。

よくある質問

Q. ペルセポネとは誰か
A. デメテルの娘で、ハデスに冥界へ連れ去られた女神。後に冥界の女王として語られる。
Q. ハデスは何の神か
A. 死者の国である冥界を治める神。ゼウスやポセイドンと兄弟で、ローマ名はプルート。
Q. ざくろを食べるとなぜ帰れないのか
A. 冥界の食べ物を口にした者は冥界に属するというルールがあるため。ペルセポネはざくろの粒を食べ、一年の一部を冥界で過ごすことになった。
Q. ギリシャ神話で四季はどう説明されるのか
A. ペルセポネが地上にいる間はデメテルが喜び大地が実る。冥界に戻る時期はデメテルが悲しみ、作物が育たない冬になる。
Q. エレウシスの秘儀とは何か
A. デメテルとペルセポネに関わる古代ギリシャの秘密儀式。生と死、実りと再生に関わる重要な祭りだったが、内容は今も多くが不明。

次に読む

もし現代でやったらコンプライアンス違反疑惑度★★★★

地面割って連れ去る婚活は即通報

  • 刑法220条不法に人を捕らえ、または閉じ込める行為に関する規定(逮捕監禁)。
  • 刑法225条営利やわいせつなどの目的で人を略取・誘拐する行為に関する規定。

元になった物語の出来事に、現代日本の実在する法令を当てはめたらどの条文に触れうるか、という読み物としての見立てです。条文番号だけを並べています。

入試に出た

この作品が実際の大学・高校入試でどう問われたかを、出典を明記して紹介します。

  • 英国OCR GCSE 古典文明(J199/11)2022Myth and Religion(神話と宗教)

    出典: ホメロス風讃歌「デメテル讃歌」(ペルセポネ略奪神話)

    試験冒頭の大問がまるごとこの神話。さらわれた娘が誰か、デメテルが放浪の末にたどり着いた町、娘を取り返すためにした事、その作戦がなぜ効いたか、この神話がどんな自然現象の説明になっているかが問われた

    答えの要点:娘の名はペルセポネ(ローマ名プロセルピナ)。デメテルがたどり着いた町はアテネ近郊のエレウシス。そこで人間に神殿を建てさせ、作物が育つのを止めて大飢饉を起こし、ゼウスからの帰還要請を「娘に会うまで戻らない」と全部拒否した。この作戦が効いたのは、人間が滅ぶと神々への供物と崇拝が絶えて神々の側が困るから。ゼウスは折れてヘルメスを冥界へ派遣した。そしてこの神話は季節の移り変わり(冬)の説明になっている。ペルセポネが冥界にいる間デメテルが実りを止めるのが冬、戻ると春。この5点を押さえれば全問に答えられる。

  • 英国OCR Aレベル 古典文明(H408/31)2022Greek Religion(ギリシャ宗教)

    出典: エレウシスの秘儀(デメテル讃歌が起源譚)

    「なぜ密儀の信仰がギリシャ宗教のこれほど重要な部分になったのか」を論じさせる大型論述で、採点基準の中心にデメテルとペルセポネを祀るエレウシスの秘儀が置かれた

    答えの要点:エレウシスの秘儀は、娘を取り戻したデメテルがエレウシスの人々に自ら教えたとされる秘密の入信儀式で、古代ギリシャ最大の密儀宗教。高得点の核は3点。(1)通常の都市国家の宗教は共同体の祭りで個人の救いを扱わないが、秘儀は個人が自分の意思で入信する宗教だった。(2)最大の御利益は死後の幸福で、死の不安に直接応えた。(3)女性も貧者も奴隷も(ギリシャ語を話し殺人の穢れがなければ)参加でき、間口が広かった。この「個人の選択・死後の救い・開かれた参加」が既存宗教の隙間を埋めたと論じれば骨格になる。

腕試し(オリジナル問題)

過去問の丸写しではなく、この記事のために作った自作の練習問題です。腕試しにどうぞ。

問1ギリシャ神話では四季(特に冬)の由来がペルセポネの物語で説明される。その仕組みを、ざくろの実の役割を含めて3行程度で説明せよ。

問2デメテルはゼウスに娘を返させるために、暴力ではない手段で神々を追い詰めた。その手段と、それが神々に効いた理由を説明せよ。

問3「あちらの世界の食べ物を口にした者は戻れなくなる」という型は世界の神話に広く見られる。日本神話で似た構造を持つ話を一つ挙げ、共通点を述べよ。