第5夜 日本神話(古事記) その8

ヤマトタケル、強すぎて父に遠ざけられた最強の悲劇

ヤマトタケルは強すぎた。兄を素手で殺し、女装して敵の宴に潜り、草薙剣で野火を返す。家族会議に置いたら全員の背筋が凍るレベル。でも最後は父に愛されたかった男として、白鳥になって家へ帰ろうとする。怖いし強いし、クソ寂しい英雄なんよ。

兄を素手で殺して父に引かれる

マサ
マサ
最後はヤマトタケルや。中巻のスターで、古事記の人間側の英雄としてめちゃくちゃ濃い。父は景行天皇。ヤマトタケルは最初、小碓命って名前で出る。若いのに力が強すぎる。
だいち
だいち
強い英雄って感じ?
マサ
マサ
強い。けど始まりがクソ怖い。父が兄に、朝夕の食事の場へ来るよう言え、と小碓に命じる。兄が来ない。
父がどうしたと聞くと、小碓は、兄を捕まえて手足をもぎ取って包んで捨てた、みたいに答える。つまり兄を殺してる。家族の伝言頼んだらバラバラ事件で返ってくる。
ヤマト
ヤマト
え、最初から身内殺し?
さやか
さやか
父親からすると、強い以前に怖いね。
マサ
マサ
景行天皇はドン引きする。こいつ危ないと感じる。そこで遠くの敵を討ってこいと命じる。
九州のクマソを討て、と。表向きは任務やけど、息子を遠ざける意味もある。強すぎる子を父が怖がる話なんよ。
だいち
だいち
父に認められるんじゃなくて、怖がられる英雄なんだ。
マサ
マサ
ここが悲劇の芯や。ヤマトタケルは最強級やけど、家の中に居場所がない。強さが愛される理由やなく、遠ざけられる理由になってしまう。
現場でもおるやろ、仕事できすぎて逆に扱いづらい人。あれの神話最大火力版や。
ヤマト
ヤマト
兄を手で裂く人は扱いづらいで済まない。危険人物すぎるわ。
マサ
マサ
それはそうwww ただ、古事記はヤマトタケルをただの乱暴者として終わらせへん。父に命じられた任務へ向かう時、叔母のヤマトヒメから衣装や道具を受け取る。
後の草薙剣もこのヤマトヒメ経由で手にする。
だいち
だいち
また草薙剣が出てくるんだ。
マサ
マサ
そう。スサノオがオロチの尻尾から見つけた剣が、めぐりめぐってヤマトタケルの物語で光る。草薙剣追跡、ここで大回収や。
ヤマト
ヤマト
オロチの尻尾から、遠征中の若者の手元へ。剣も出張多い。
マサ
マサ
ほんまや。しかもこの剣は、父から直接もらうんやなく叔母から渡される。ヤマトタケルの救いは、父の命令より、叔母の手渡しのほうにあるんよ。
マサが串を剣みたいに持ち直す。
さやか
さやか
神器が英雄の手に渡ると、物語が一気に人間の戦いになるね。
マサ
マサ
決めの一言。ヤマトタケルは、強いから旅に出るんじゃない。強すぎて家に置いてもらえないから、旅へ出るんや。

女装して宴に潜り込む

マサ
マサ
九州へ向かった小碓命は、クマソタケル兄弟を討つ任務を受ける。正面から攻めるんかと思うやろ。ここで聞くで。最強の若者、敵の宴にどうやって入ったと思う?
ヤマト
ヤマト
正面突破。
だいち
だいち
夜に忍び込む。
さやか
さやか
使者のふりをする。
マサがにやりと笑う。
マサ
マサ
女装する。叔母にもらった衣装で髪を下ろし、少女みたいな姿になって宴へ潜り込む。敵は美しい娘が来たと思って油断する。
ヤマトタケル、腕力だけじゃなく変装も使う。強い男が、敵の下心まで踏み台にして刺しに行くんよ。
ヤマト
ヤマト
最強の潜入コーデ。
だいち
だいち
古事記に女装暗殺があるのすごい。
マサ
マサ
宴が盛り上がる。クマソタケルが油断して近づく。そこで小碓は懐から剣を出して刺す。一人を斬り、もう一人が逃げるのを追って刺す。
死に際、クマソタケルは言う。西の国に自分たちほど強い者はいないと思っていたが、あなたのほうが強い。これからはヤマトタケルと名乗れ、と。
さやか
さやか
敵が名前を与えるんだ。
マサ
マサ
そう。タケルは強い者という意味合いの名や。敵の強者が、自分の名を相手に譲る。倒された側が、倒した相手を認める。ここで小碓命はヤマトタケルになる。
ヤマト
ヤマト
勝利報酬が称号。
マサ
マサ
ただし方法は暗殺や。宴に女装で入り、油断したところを刺す。英雄譚やけど、正々堂々の決闘ではない。古事記の英雄は、力も策略も使う。きれいなスポーツマンシップでは語れへん。
だいち
だいち
強いけど怖い。
マサ
マサ
そこがヤマトタケルや。美しい名前を得る場面なのに、やってることは血なまぐさい。父に怖がられた強さが、外では敵に認められる強さになる。
店のざわめきが少し戻る。
さやか
さやか
家では危険、外では英雄。このズレがずっと続くんだね。
マサ
マサ
決めの一言。ヤマトタケルの名は、女装して潜った宴の血の中で渡された称号なんや。

草薙剣で野火を返す

マサ
マサ
九州から戻ったヤマトタケルに、父はまた遠征を命じる。今度は東国や。息子が帰ってきても休ませへん。
ヤマトタケルは、父は自分に死ねと思ってるんちゃうかと嘆く。ここがつらい。最強でも、父の愛は欲しいんよ。
だいち
だいち
戦い続ける理由が悲しい。
マサ
マサ
東へ行く前に、伊勢のヤマトヒメを訪ねる。ヤマトヒメはアマテラスに仕える叔母で、そこで草薙剣を渡す。出たで。スサノオがオロチから出した剣が、ついにヤマトタケルの手に来る。
ヤマト
ヤマト
草薙剣、長旅の末に主人公装備。
マサ
マサ
東国でヤマトタケルは野原に誘い込まれる。敵は周囲に火をつける。野火で焼き殺す作戦や。
ここでヤマトタケルは草薙剣で草を薙ぎ払い、火打ち石で逆に火を返す。焼津という地名の由来とも言われる。
だいち
だいち
草薙剣ってここで名前の意味が出るの?
マサ
マサ
そう。草を薙いで火を返したから草薙剣。オロチの尻尾から出た剣が、ここで名前にふさわしい働きをする。伏線が気持ちよすぎるやろ。
ヤマト
ヤマト
武器名がこの瞬間に回収されるの、少年漫画みたいで熱い。
マサ
マサ
熱いんよ。しかも敵の火をそのまま返す。殺されるための罠を、自分の進む道に変える。ヤマトタケルの強さが一番きれいに出る場面や。
さやか
さやか
武器がただ強いだけじゃなく、危機の場面で意味を持つんだ。
マサ
マサ
でも東征はそれだけじゃない。海が荒れて船が進まない時、妻のオトタチバナヒメが、海の神の怒りを鎮めるために自分が海に入ると言う。そして身を投げる。海は静まる。
誰もすぐには茶々を入れない。
ヤマト
ヤマト
それは重い。
さやか
さやか
妻が夫の道を開くために命を差し出す場面だね。美談だけで済ませるには痛すぎる。
マサ
マサ
ヤマトタケルは後に、吾妻はや、と嘆く。ああ、わが妻よ、という叫びや。それが東、あずま、の語源とも言われる。土地の名前に、失った妻への声が残るんや。
だいち
だいち
勝って進むたびに、何かを失ってる。
マサ
マサ
決めの一言。草薙剣は火を返したけど、ヤマトタケルの胸の火までは消してくれへんかった。

白鳥になって帰ろうとする

マサ
マサ
東国を平定したヤマトタケルは、尾張でミヤズヒメと関わり、草薙剣を置いたまま伊吹山へ向かう。ここが運命のミスや。伊吹山の神を、素手でいけると軽く見る。
ヤマト
ヤマト
神器置いていくの、フラグすぎる。
マサ
マサ
伊吹山の神は白い猪、または大蛇のような姿で現れる。ヤマトタケルはこれは神の使いだ、本体は後で倒せばいいと思って無視する。でもそれが神そのものやった。
油断でやられる。山の神が氷雨を降らせ、ヤマトタケルは病む。
だいち
だいち
最強でも判断ミスで負けるんだ。
さやか
さやか
草薙剣を置いていったのが大きいね。守りを手放した感じがある。
マサ
マサ
衰弱したヤマトタケルは大和へ帰ろうとする。途中で歌を詠む。
大和は国のまほろば、たたなづく青垣、山ごもれる大和しうるわし。ざっくり言うと、大和は一番いい国や、青い垣みたいに山が重なって囲む美しい場所や、と故郷を恋しがる歌や。
ヤマト
ヤマト
急に泣けるじゃん。
マサ
マサ
強すぎて父に遠ざけられ、各地で敵を倒し、妻を失い、最後に思うのは家に帰りたい、なんよ。英雄の最期が、勝利のポーズじゃなく望郷の歌。そこがヤマトタケルの悲劇や。
だいち
だいち
父に会いたかったのかな。
マサ
マサ
そこは直接言い切れへんけど、家に帰りたかったのは確かや。能褒野で亡くなる。すると白鳥になって飛んでいく。人々が追う。白鳥は大和へ、さらに河内へ飛ぶ。死んでもなお帰ろうとする。
マサの声が少し落ちる。
さやか
さやか
最強の人が最後に鳥になるの、自由でもあり、帰れなさでもあるね。
マサ
マサ
そう。白鳥は美しい。でも飛んでいく姿は、もう人として家に入れない悲しさもある。ヤマトタケルは強すぎて、最後まで居場所を探してたんやと思う。
だいち
だいち
飛べるのに、帰れたとは言い切れないのがつらい。
ヤマト
ヤマト
兄を殺した最初の怖さから、最後は帰りたい白鳥になるの、振れ幅えぐい。
マサ
マサ
古事記の英雄は、ただかっこいいだけやない。怖い、強い、寂しい、愛されたい、全部持ってる。草薙剣の火返しも、オトタチバナヒメの海も、最後の白鳥も、全部その孤独を照らしてる。
だいち
だいち
人に話したくなるけど、軽く話せない感じもある。
マサ
マサ
決めの一言。最強の男の最期は、白鳥になって家に帰ろうとしたことや。

暗記用

これだけ覚えたら、教養人の顔で会話に入れるフレーズ

口に出す時は、言葉と読みをセットで覚えると強い。

  1. ヤマトタケルやまとたける

    女装暗殺から始まる日本神話最大の悲劇のヒーロー。

  2. 吾妻はやあづまはや

    海に消えた妻を想った一言。東(あづま)の語源とも。

  3. まほろばまほろば

    「大和は国のまほろば」。故郷を想う望郷の歌の言葉。

  4. 白鳥伝説はくちょうでんせつ

    死んだヤマトタケルが白鳥になって飛んでいった結末。

よくある質問

Q. ヤマトタケルとは誰か?
A. 景行天皇の子で、古事記に出る代表的な英雄だ。兄を殺し、クマソを女装暗殺し、東国遠征で草薙剣を使う。
Q. 日本武尊とヤマトタケルは同じか?
A. 一般に同じ英雄を指す表記だ。古事記では倭建命などと書かれ、日本書紀では日本武尊の表記がよく知られる。
Q. ヤマトタケルはなぜ女装した?
A. クマソタケルの宴に潜入するためだ。美しい少女のように装い、敵が油断したところを懐の剣で討った。
Q. 草薙剣はヤマトタケルとどう関係する?
A. 伊勢のヤマトヒメから渡され、野火に囲まれた時に草を薙いで火を返す場面で活躍する。もとはスサノオがオロチから得た剣だ。
Q. ヤマトタケルは最後どうなる?
A. 伊吹山の神を軽く見て敗れ、病んで大和へ帰ろうとする途中で死ぬ。その後、白鳥になって飛び去ったと語られる。

次に読む

もし現代でやったらコンプライアンス違反疑惑度★★★★★

武勇伝の全行程に警察が同行すべき皇子

  • 刑法110条
  • 刑法130条正当な理由なく他人の住居や建物に侵入する行為などに関する規定(住居侵入等)。
  • 刑法190条死体や遺骨などを損壊し、または遺棄する行為に関する規定(死体損壊等)。
  • 刑法199条人を殺した者に科される罪の規定(殺人)。
  • 銃刀法

元になった物語の出来事に、現代日本の実在する法令を当てはめたらどの条文に触れうるか、という読み物としての見立てです。条文番号だけを並べています。

入試に出た

この作品が実際の大学・高校入試でどう問われたかを、出典を明記して紹介します。

  • センター試験 日本史B2019日本史B

    出典: 第1問「地名とその土地の歴史」問1(『風土記』の判別)

    地名とその土地の歴史をテーマにした大問で、「諸国の地理や産物などをまとめた書物」がどれかを判別させる問題が出た(『万葉集』との組み合わせ正誤)。

    答えの要点:答えは『風土記』。713年に元明天皇の命で諸国に作らせた地誌で、郡や郷の「地名の由来」・地形・産物・伝承を報告させたもの。ほぼ完全に残る出雲のほか常陸・播磨・豊後・肥前が現存(五風土記)。ヤマトタケルの「焼津」(火をつけられて焼き払った)や「あづま」(吾妻はや)のような地名起源の伝説は、まさに記紀・風土記が地名の由来を語る典型で、この知識とセットで覚えると正解できる。『万葉集』(759年頃までの約4500首の歌集)との区別が問われる。

  • センター試験 日本史B2020日本史B

    出典: 第1問 問6(津田左右吉『古事記及び日本書紀の新研究』1919年の史料読解)

    歴史学者・津田左右吉の著作『古事記及び日本書紀の新研究』(1919年)が初見史料として出され、注をヒントに読解させる問題が出た。

    答えの要点:津田左右吉は、古事記・日本書紀の神話やヤマトタケルのような伝説を「歴史的事実の記録ではなく、皇室による支配を正当化するために構成された物語」と科学的に分析した戦前の歴史学者。この記紀批判が皇室の尊厳を傷つけるとされ、1940年に著書が発禁処分になった(思想弾圧の代表例として日本史頻出)。「記紀の神話・英雄伝説=そのままの史実ではなく、編纂意図を持って作られたテキスト」という視点を知っていれば史料も読解できる。

腕試し(オリジナル問題)

過去問の丸写しではなく、この記事のために作った自作の練習問題です。腕試しにどうぞ。

問1ヤマトタケル(小碓命)が「タケル」の名を得た経緯を説明せよ。

問2「焼津」と「あづま(東)」の地名の由来を、ヤマトタケルの東征のエピソードに即して説明せよ。