第5夜 日本神話(古事記) その4

スサノオ、ヤマタノオロチを酒で潰して剣を拾う

姉の職場にうんこを撒いて追放されたスサノオは、出雲で急に英雄になる。作戦は八つの頭を持つ大蛇に、八つの桶で強い酒を飲ませること。日本最初級のドラゴン退治、勝因がだいぶ飲酒事故だ。

追放された男が出雲へ落ちる

マサ
マサ
天岩戸の原因を作ったスサノオは、髭と爪を切られて追放される。神々の世界から地上へ落ちる。普通ならここで退場やけど、古事記はここから急にスサノオを主人公にする。ほんま油断できん。
ヤマト
ヤマト
うんこ撒いたやつの再就職先、出雲。
マサ
マサ
言い方www でもそう。スサノオは出雲の肥の川の上流へ行く。そこで川に箸が流れてくるのを見る。箸が流れてくるなら、上に人がおるはずやと考える。意外と冷静な観察力ある。
だいち
だいち
暴れるだけじゃないんだ。
マサ
マサ
上流へ行くと、老夫婦と若い娘が泣いてる。老夫婦はアシナヅチとテナヅチ、娘はクシナダヒメ。めちゃくちゃ大事な娘や。
なぜ泣いてるかというと、ヤマタノオロチって八つの頭と八つの尾を持つ大蛇が、毎年娘を食いに来る。もう七人食われて、残りがこのクシナダヒメだけ。
さやか
さやか
毎年一人ずつ娘を失うの、親として耐えられない。
マサ
マサ
ヤマタノオロチの描写がまたでかい。体には苔や木が生え、八つの谷、八つの峰にまたがる。腹は血でただれてる。単なるヘビやない。山と川そのものみたいな怪物や。
だいち
だいち
怪物というより、地形が動いて食べに来る感じだ。
ヤマト
ヤマト
サイズ感がもう災害。
マサ
マサ
そう。オロチは怪物であり、洪水とか自然災害のイメージも背負ってる。そこへスサノオが来る。さっきまで秩序を壊してた男が、今度は災害みたいな怪物を止める側に回る。
だいち
だいち
評価がひっくり返るね。
マサ
マサ
スサノオはクシナダヒメを妻にくれるなら助けると言う。ここも古い話の価値観がそのまま出る。老夫婦はスサノオがアマテラスの弟だと知って、娘を差し出す。
さやかが少しだけ息を吐く。
さやか
さやか
助ける代わりに娘を妻にする、物語としては定番だけど、現代目線では引っかかるね。
マサ
マサ
そこは引っかかったままでええ。古い物語は、昔の社会の取引も一緒に連れてくる。笑うとこ、怖がるとこ、距離を取るとこを分けて読むんや。
ヤマト
ヤマト
で、暴れん坊はどう戦うの?
マサ
マサ
決めの一言。出雲に落ちたスサノオは、初めて誰かを怖がらせる側じゃなく、誰かの恐怖を止める側に立つんや。

作戦は強い酒を八つ用意

マサ
マサ
スサノオの作戦がまたおもろい。正面から殴りにいかへん。まずクシナダヒメを櫛に変えて、自分の髪に挿す。
守るためやな。ほんで老夫婦に、八塩折の酒を作れと言う。何度も醸した、めちゃくちゃ強い酒や。
ヤマト
ヤマト
ドラゴン退治の準備が酒造り。
マサ
マサ
垣根を作って、八つの門を開ける。そこに八つの台を置く。さらに八つの桶に強い酒を入れる。八つの頭には八つの飲み口。
現場の段取りとして完璧や。頭の数を見て、桶の数を合わせる。こういうところ、スサノオは荒いようで賢い。
さやか
さやか
暴れる人が、ここでは相手の体のつくりをちゃんと見てる。
マサ
マサ
そう。天では雑に壊した男が、出雲では観察して仕掛けを作る。力の使い方が変わった瞬間やね。
だいち
だいち
相手の構造に合わせた罠なんだ。
さやか
さやか
暴力だけじゃなく、相手の欲に入っていくんだね。
マサ
マサ
そう。オロチが来る。八つの頭をそれぞれ桶に突っ込んで、酒を飲む。八頭同時飲酒や。普通の飲み会でも危ないのに、頭が八つあるやつが全部いく。
ヤマト
ヤマト
レモンサワー八杯同時は救急車。
マサ
マサ
ほんでオロチは酔う。強い酒をがぶがぶ飲んで、寝る。ここで一回聞くで。スサノオ、寝たオロチを見て次なにしたと思う?
だいち
だいち
封印する。
ヤマト
ヤマト
起きるまで説教する。
さやか
さやか
クシナダヒメを連れて逃げる。
マサが箸を剣みたいに持つ。
マサ
マサ
斬る。寝たところを斬り刻む。スサノオ、ここは容赦ない。酔わせて寝かせてから、剣でバラバラにする。戦いというより、完全に作戦勝ちの解体作業や。
ヤマト
ヤマト
飲ませた側が強い。
マサ
マサ
決めの一言。ヤマタノオロチ退治は、勇気の物語であり、同時に飲みすぎたら終わるという神話級の注意喚起や。

尻尾から草薙剣が出る

マサ
マサ
スサノオはオロチを斬り刻む。肥の川は血で流れる。八つの頭、八つの尾の巨大な体を切っていく。そこで尻尾を斬った時、剣の刃が欠ける。おかしいやろ。蛇の尻尾で剣が欠けるって。
だいち
だいち
尻尾の中に何かある?
マサ
マサ
そう。中からすごい剣が出てくる。これが草薙剣。もとは天叢雲剣とも呼ばれる。ここで出た剣が、のちに三種の神器になる。今も熱田神宮にあるとされる、あの剣や。
ヤマト
ヤマト
また現役アイテム出た。神話のドロップ品が今も続くのすごい。
マサ
マサ
ゲームで言うたら、ボスの尻尾から出たレア武器が、何世代も後の王家の証になる感じや。しかもこの剣、あとでヤマトタケルが持って野火を返す。草薙剣追跡、ここが第一話や。
だいち
だいち
スサノオからアマテラスに渡るの?
マサ
マサ
スサノオはこの剣を、姉のアマテラスに献上する。天岩戸では姉の職場を荒らした男が、出雲で得た剣を姉に差し出す。謝罪の品としては歴史上トップクラスや。菓子折りの次元ちゃう。
さやか
さやか
加害と償いが同じ人物の中にあるね。
マサ
マサ
そうなんよ。スサノオは単純に悪でも善でもない。壊す力が、場所を変えると怪物を倒す力になる。本人の荒さは変わらん。でも向く先が変わると、災害みたいな男が英雄になる。
店の奥から瓶を抜く音がする。
ヤマト
ヤマト
俺も職場で向く先を間違えないようにしよ。
マサ
マサ
まず遅刻をやめろ。
だいち
だいち
急に現実の説教。
マサ
マサ
草薙剣は、天孫降臨でニニギに渡る神器の一つになり、さらにヤマトタケルへもつながる。古事記のすごいところは、ここで拾った剣が単発の宝物で終わらんことや。
物語の背骨としてずっと残る。誰かが強かった証拠ではなく、神の世界から人の英雄へ渡っていく記憶そのものになる。
だいち
だいち
オロチを倒した証拠が、そのまま次の世代の正統性になるんだ。
さやか
さやか
物が記憶を運ぶんだ。
マサ
マサ
決めの一言。ヤマタノオロチの尻尾から出た剣は、怪物退治の賞品じゃなく、日本神話を貫くリレーのバトンや。

元ヤン、新婚ソングを詠む

マサ
マサ
オロチを倒したスサノオは、クシナダヒメと暮らす場所を探す。須賀という場所に来て、ああ、ここはすがすがしいと言う。地名の由来っぽい話やな。
そこで宮を建てる。暴れん坊、ついに新居建築や。
ヤマト
ヤマト
天の御柱の次はスサノオの新居。神話、家建てがち。
マサ
マサ
家は大事や。荒ぶる神が、誰かと暮らすための場所を作る。ここでスサノオが歌を詠む。
八雲立つ、出雲八重垣、妻ごみに、八重垣作る、その八重垣を。ざっくり言うと、雲が幾重にも立つ出雲で、妻を守るために幾重にも垣を作る、という歌や。
だいち
だいち
急に詩人になるの?
マサ
マサ
そう。しかもこれが日本最古の和歌ともされる。さっきまでうんこ撒いて、オロチを酒で潰して斬ってた男が、結婚した途端に新居で歌を詠む。情緒の高低差で耳キーンなるわ。
ヤマト
ヤマト
元ヤンの新婚ソングwww
さやか
さやか
でも妻を囲って守る垣の歌って、暴力から生活へ移る感じはある。
マサ
マサ
まさにそこ。八重垣って何重もの垣やろ。オロチから守る、外の危険から守る、家庭を作る。その感覚が歌になってる。荒々しいスサノオが、初めて守るために囲う。
だいち
だいち
スサノオの印象が変わるね。
マサ
マサ
ただ忘れたらあかん。こいつは天岩戸の原因や。アマテラスを追い詰めたやつでもある。でも出雲では娘を救い、剣を得て、和歌を詠む。神話の人物は、一行で評価できへん。
ヤマトが小さく拍手する。
ヤマト
ヤマト
うんこから和歌まで幅広い。
マサ
マサ
そのまとめ方は最低やけど正しい。神話って、上品な要約だけやと残らん。うんこ、酒、剣、和歌くらい振れ幅があるから、一回聞いたら忘れへん。
ヤマト
ヤマト
でも一回そう覚えたら忘れない。
さやか
さやか
古事記って、聖なる話なのに人間の振れ幅を隠さないね。
マサ
マサ
そう。だからおもろい。完璧な神がきれいに勝つだけなら、ここまで残ってへん。めちゃくちゃやらかした神が、違う場所で誰かを救い、歌まで残す。決めの一言。
日本文学の第一号は、元ヤンの新婚ソングや。うんこを撒いた男が、酒で大蛇を倒し、最後に妻を守る垣の歌を残す。この振れ幅ごとスサノオなんよ。きれいな聖人にしたら、むしろ味が消える。

暗記用

これだけ覚えたら、教養人の顔で会話に入れるフレーズ

口に出す時は、言葉と読みをセットで覚えると強い。

  1. スサノオすさのお

    暴れて追放された神が、出雲でドラゴン退治のヒーローになる。

  2. ヤマタノオロチやまたのおろち

    頭が8つある大蛇。酒で泥酔させられて斬られた。

  3. 草薙剣くさなぎのつるぎ

    オロチの尻尾から出た剣。三種の神器の一つで熱田神宮に。

  4. 八雲立つやくもたつ

    スサノオが新居で詠んだ、日本最古とされる和歌の出だし。

よくある質問

Q. ヤマタノオロチとは何か?
A. 八つの頭と八つの尾を持つ大蛇だ。出雲で毎年娘を食う怪物として現れ、スサノオに退治される。
Q. スサノオはなぜ出雲へ行った?
A. アマテラスの聖域を荒らした罰で天上から追放され、地上の出雲へ降りた。そこで泣いている老夫婦とクシナダヒメに出会う。
Q. 八塩折の酒とは何か?
A. 何度も醸した強い酒だ。スサノオは八つの桶に酒を置き、ヤマタノオロチの八つの頭に飲ませて酔わせた。
Q. 草薙剣はどこから出た?
A. スサノオがヤマタノオロチの尾を斬った時、中から出た。のちに三種の神器の一つとなる。
Q. 八雲立つの歌は何が重要か?
A. スサノオがクシナダヒメとの新居で詠んだ歌で、日本最古の和歌ともされる。暴れん坊が生活と守りの歌を残す点が面白い。

次に読む

もし現代でやったらコンプライアンス違反疑惑度★★★★★

英雄ムーブなのに免許と許可だけ全部ない

  • 酒税法
  • 銃刀法

元になった物語の出来事に、現代日本の実在する法令を当てはめたらどの条文に触れうるか、という読み物としての見立てです。条文番号だけを並べています。

入試に出た

この作品が実際の大学・高校入試でどう問われたかを、出典を明記して紹介します。

  • 高校古文・大学入試文学史の定番教材(古今和歌集 仮名序)定番(教科書所収・頻出)国語(古文・文学史)

    出典: 紀貫之『古今和歌集』仮名序(905年頃)

    入試古文・文学史の定番教材である『古今和歌集』仮名序には「人の世となりて、素盞嗚尊よりぞ、三十文字あまり一文字は詠みける」とあり、和歌(31文字の短歌)の起源とされる神は誰か、仮名序の筆者は誰か、が問われる。

    答えの要点:31文字の和歌を最初に詠んだとされるのはスサノオ(素盞嗚尊)。その歌が、クシナダヒメと住む宮を出雲に建てた時の「八雲立つ出雲八重垣妻籠みに八重垣作るその八重垣を」で、日本最古の和歌とされる。仮名序の筆者は紀貫之。ひっかけ注意: 「現存最古の和歌集」は『万葉集』(この歌は歌集でなく『古事記』の中の歌)。「八雲立つ」は出雲にかかる枕詞。

  • センター試験(本試) 日本史B2010年度日本史B

    出典: 『古事記』(712年成立)

    このオロチ神話を収める『古事記』そのものの成立過程が正誤問題で出た。誰が記憶し、誰が文字にして完成させたかを説明する選択肢の判定。

    答えの要点:天武天皇が稗田阿礼に神話・伝承を覚え込ませ(誦習)、元明天皇の命で太安万侶が筆録して712年に完成、が正しい説明。「阿礼が覚える・安万侶が書く・712年」の3点で正解できる。『日本書紀』(720年、舎人親王ら、漢文の正史)との区別も定番で、オロチ退治は両書に載るが細部が違う、という対比まで知っていれば強い。

腕試し(オリジナル問題)

過去問の丸写しではなく、この記事のために作った自作の練習問題です。腕試しにどうぞ。

問1スサノオのヤマタノオロチ退治の方法を説明せよ。またオロチの尾から出たものは何か。

問2「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」について、詠んだとされる神と、この歌が文学史上どう位置づけられるかを述べよ。