第3夜 徒然草 その5

高名の木登り。油断するのは、いつも簡単なところ

一番やらかすの、ラスボス戦じゃないんよ。勝ってセーブ飛ばす瞬間。徒然草の「高名の木登り」は、まさにその勝った顔を七百年前から見張ってる話。高い木の上で枝を切ってる時は名人が黙ってるのに、もう降りられそうな軒先で急に「心して降りよ」。気をつけて降りろ。遅い遅い遅いwww でも遅いんじゃない。人間が一番アホになる高さを、名人だけが知ってた。

高名の木登り、注意する場所が逆すぎる

コウキ
コウキ
人間ってさ、一番やらかすのラスボス戦じゃないんよ。ラスボス倒して、スタッフロール見ながらポテチ食ってる時に、コントローラーの電源切ってセーブ飛ばす。
勝った顔のまま終わる。これが一番声出るwww
ヒロシ
ヒロシ
それほんま最悪やん。勝利の顔で死亡やん。
コウキ
コウキ
で、その勝った顔を七百年くらい前から監視してる本がある。徒然草。兼好法師って人が、鎌倉時代の終わりごろに書いた、人間観察メモの化け物みたいなやつ。
その第109段に出てくるのが、高名の木登り。要は木登り界のガチ職人。
ひなの
ひなの
木登り界のガチ職人、字面だけで強いw
コウキ
コウキ
その名人が、人をめちゃくちゃ高い木に登らせて、一番上の枝を切らせる。見てるだけで玉がキュッとなる高さ。枝ギシッ、風ビュッ、本人プルプル。
普通なら下から叫ぶじゃん。「左足そこ死ぬ」「保険入ってる?」って。
しずく
しずく
保険確認するの生々しいw
コウキ
コウキ
ところが名人、無言。完全に黙る。で、登ってた人が枝を切り終えて、ゆっくり降りてくる。てっぺんから真ん中、真ん中から下。もう軒先くらいの高さ。本人の顔にも、よし終わった、が出る。
そこで名人が急に言う。「心して降りよ」。気をつけて降りろ。
ひなの
ひなの
今?今なの?上で命のチキンレースしてた時は?www
店の奥で氷がカランと鳴る。
コウキ
コウキ
名人は高さを見てたんじゃない。そいつの「もう大丈夫っしょ顔」を見てた。

失敗は簡単そうな所で起きる

コウキ
コウキ
周りも当然ツッコむ。「なんで今さら?高い時に言えよ。もうその高さなら飛び降りてもいけそうじゃん」って。完全にツッコミ待ちのタイミングなんよ。
ヒロシ
ヒロシ
名人、注意のタイミングだけ見たら下手すぎるもんな。
コウキ
コウキ
でも名人の答えがえぐい。原文では「あやまちは安き所になりて、必ず仕る事に候ふ」。
これ、現代語で言うと、失敗って難しい所じゃなくて、簡単そうな所まで来てから必ず起きるんだよ、ってこと。
高い所では、人は勝手に怖がる。名人はそこも言ってる。「おのれが恐れ侍れば申さず」。
つまり、危ない高さにいる時は本人がもうビビってるから、わざわざ言わない。手も足も目も、全部ちゃんと働いてる。脳内アラーム鳴りっぱなし。
しずく
しずく
たしかに上で無駄口たたく余裕ないわ。
コウキ
コウキ
問題は下の方。体はまだ木の上なのに、心だけもう地上で唐揚げ頼んでる。おつかれ俺、今日いけてたわ、みたいな顔になってる。
その瞬間に手を離すのが早い。足を置く場所を見ない。枝を確認しない。
ひなの
ひなの
心だけ打ち上げ先行、めっちゃあるw
コウキ
コウキ
あるだろ。で、次に何が起きると思う?滑る?枝が折れる?鳥が来る?違う。本人の油断が先に枝を折る。
ヒロシ
ヒロシ
油断の自損事故やん。保険きかんやつ。
コウキ
コウキ
兼好はここで、この名人をかなり褒めてる。身分は低いけど、聖人の戒めにかなってる、って。これがいいんだよ。
偉い人が机でひねった教訓じゃない。木の下で、落ちかけた人間の顔を何度も見てきた、現場の職人の言葉なんよ。
みんな一瞬だけグラスを見る。
コウキ
コウキ
人は高い場所からじゃなく、安心した顔から落ちる。

蹴鞠でもゆる球が一番こわい

コウキ
コウキ
しかも兼好、木登りだけで終わらせない。第109段はこのあと蹴鞠の話も出す。
蹴鞠って、昔の貴族が鞠を足で蹴って、落とさずに続ける遊び。サッカーみたいに点を取るんじゃなくて、落とさず美しくつなぐ方。
ひなの
ひなの
落としたら終わりの遊び、普通に緊張する。
コウキ
コウキ
で、難しい球が来る。右に変な回転、足元ギリギリ、普通ならもう終わり。そこで人間は覚醒する。目カッ、腰グッ、足スパーン。奇跡みたいに返す。周りも「おお!」ってなる。
ヒロシ
ヒロシ
主人公タイムやな。急に音楽鳴るやつ。
コウキ
コウキ
そう。で、その直後に、ふわっと優しい球が来る。赤ちゃんでも受けられそうな顔してる球。次に何したと思う?
ひなの
ひなの
余裕ぶってノールック?
ヒロシ
ヒロシ
観客にウインクして外すやつちゃう?
しずく
しずく
変な決めポーズ入れてる気がするw
鞠がゆっくり落ちてくる。
コウキ
コウキ
ポトッ。終わり。
ヒロシ
ヒロシ
だっさwwww
コウキ
コウキ
そう、ださいんよ。難しい球を返した直後のゆるい球で死ぬ。大事な商談は乗り切ったのに、最後のメールで相手の名前を間違える。
面接は完璧だったのに、帰り際にドアを押すのか引くのかでガチャガチャする。試験問題は解けたのに名前を書き忘れる。
ひなの
ひなの
お菓子もそれある。難しい生地できたあと、最後の粉糖で白い吹雪にする。雪国かよってなる。
コウキ
コウキ
粉糖の蹴鞠www 兼好が言いたいのはそこ。難しい所は人を真剣にする。でも簡単そうな仕上げは、人を急に雑にする。はいはい余裕っす、って顔をした瞬間に、鞠も仕事もケーキも落ちる。

仕事も運転も最後の三段目でやられる

コウキ
コウキ
仕事でも毎日これ。企画を通すまではみんな真剣。資料見る、数字見る、上司の眉毛の角度まで見る。で、通った瞬間に気が抜けて、請求書の宛名を一文字ミスる。
カレンダー登録が一日ズレる。ファイル名が去年のまま。信用が軒先から落ちる。
ヒロシ
ヒロシ
運転もそれやで。高速の合流は真剣やのに、家の近所でポールにガリッや。もう着いた顔してるからな。
コウキ
コウキ
タクシー版高名の木登りきたwww 高速の合流はてっぺんの枝なんだよ。怖いからミラーも見る。車間も見る。
問題は家の近所。見慣れた道、知ってるコンビニ、あと二分。体は運転席なのに、心はもう玄関で靴脱いでる。
しずく
しずく
あと二分の顔、いちばん危ないやつ。
コウキ
コウキ
この段が見てるのは、危険そのものより、危険が終わったと思う心なんよ。危険には危険な顔がある。高い木、難しい球、高速道路、大商談。見た目が怖いから、人間はちゃんと怖がれる。
でも軒先、ゆるい球、家の近所、最後の確認。こいつらは優しい顔で近づく。合コンで「俺ほんと安全な男だから」って自分から言うやつくらい信用ならない。安全アピールが強いほど危ない。
ひなの
ひなの
それは警報鳴るw
コウキ
コウキ
うちの焙煎でも同じ。焙煎中は集中する。音、煙、豆の色、全部見る。そこは怖いからミスらない。
で、焼き上がって冷まして、袋に詰める。もう商品の顔をする。そこで日付シールを間違えたら終わり。味は合ってるのに、信用のシールだけ転落。
ラベルを貼る指が一瞬止まる。
コウキ
コウキ
簡単なところは、簡単そうな顔で人間の雑さを釣ってくる。

飲み会で話すなら最後の軒先で落とす

コウキ
コウキ
だからこの話、飲み会で話すならこう。昔の徒然草に、木登りの名人がいる。人をめちゃくちゃ高い木に登らせて、一番上の枝を切らせる。見てる側はもう心臓が串焼き。でも名人は何も言わない。
ひなの
ひなの
串焼き嫌すぎるwww
コウキ
コウキ
で、その人が無事に枝を切って降りてくる。みんなホッとする。本人も、俺やったわ、みたいな顔になる。もう軒先くらい。
ここで落ちても飛び降りられるじゃん、って高さ。そこで名人が急に「心して降りよ」。気をつけて降りろ。
ヒロシ
ヒロシ
そこで全員が「遅っ」ってなるやつやな。
コウキ
コウキ
なる。周りが聞く。「なんで今?高いところで言えよ」って。そしたら名人が返す。
危ない所では本人が怖がってる。失敗は、簡単な所まで来て気がゆるんだ時に起きる。これが「あやまちは安き所」。
しずく
しずく
短いのに刺さり方がえぐい。
コウキ
コウキ
木から降りるまでが木登り。添付を確認するまでが仕事。エンジンを切るまでが運転。粉糖をかけすぎないまでがケーキ。簡単そうに見える最後の一手こそ、ちゃんと怖がった方がいい。
ひなの
ひなの
最後だけ私に刺しに来たw
コウキ
コウキ
最後の絵が強いんだよ。高い木の上で、枝を切った人がゆっくり降りてくる。下では名人が黙ってる。本人の顔に、よし終わった、が出る。あと少し。
軒先の高さ。誰でも油断する高さ。そこで名人がぽつんと「心して降りよ」。気をつけて降りろ。
全員が同じ軒先を見る。
コウキ
コウキ
人間は、てっぺんの危険より、帰り道の安心で落ちる。
ヒロシ
ヒロシ
うわ、今日の帰りだけ全員慎重になるやつやんwwww
ひなの
ひなの
粉糖も二度見する。もう吹雪にしない。
コウキ
コウキ
それでいい。簡単なところでちゃんと怖がれるやつが、一番最後まで落ちない。

暗記用

これだけ覚えたら、教養人の顔で会話に入れるフレーズ

口に出す時は、言葉と読みをセットで覚えると強い。

  1. 高名の木登りこうみょうのきのぼり

    木登りの名人。危ない時ではなく、油断する時に声をかける。

  2. 過ちは易き所になりてあやまちはやすきところになりて

    ミスは簡単な所で起きる、という刺さる一言。

  3. 油断ゆだん

    この話の核心。最後の数歩で人は気を抜く。

  4. 用心ようじん

    危ない所だけでなく、終わり際にも必要な姿勢。

よくある質問

Q. 高名の木登りって何?
A. 徒然草第109段に出てくる、評判の高い木登りの名人。人が高い木で枝を切っている間は黙り、軒先くらいまで降りた時に「心して降りよ」、気をつけて降りろ、と声をかける。
Q. あやまちは安き所ってどんな意味?
A. 失敗は難しい場面より、簡単そうで気がゆるんだ場面で起きる、という意味。高い所では本人が怖がっているから用心するが、もう大丈夫と思った所で雑になる。
Q. 徒然草第109段に蹴鞠が出るのはなんで?
A. 木登りと同じ油断を、別の場面でも見せるため。蹴鞠でも難しい球を返した直後、やさしいと思った球を落としやすい。危険が終わったと思う心が失敗を呼ぶ、という話になっている。
Q. この話を現代で使うなら何に近い?
A. 商談後のメールで名前を間違える、運転で家の近所だけ擦る、試験で名前を書き忘れる、仕上げの粉糖をかけすぎる、みたいな最後の油断に近い。終わった顔をした瞬間が一番あぶない。

次に読む

もし現代でやったらコンプライアンス違反疑惑度★★★★

油断するなという良い話、健全

元になった物語の出来事に、現代日本の実在する法令を当てはめたらどの条文に触れうるか、という読み物としての見立てです。条文番号だけを並べています。

腕試し(オリジナル問題)

過去問の丸写しではなく、この記事のために作った自作の練習問題です。腕試しにどうぞ。

問1徒然草第百九段で、木登りの名人は、人が高い枝の上にいる間は何も声をかけず、軒先ほどの低い高さまで降りてきてはじめて「心して降りよ」と注意した。なぜこの順番だったのか、名人自身の理屈にそって説明せよ。

問2名人の言葉「あやまちは安き所になりて、必ず仕る事に候ふ」の趣旨を説明し、現代の日常から自分で例を一つ挙げて当てはめよ。

問3兼好はこの段の最後に蹴鞠の話を付け加えている。木登りの逸話と蹴鞠の例が、同じ教訓を示すといえる理由を説明せよ。