第5夜 日本神話(古事記) その1

イザナギとイザナミ、日本列島の出生届が強すぎる

日本列島は、神さま夫婦がセックスして産んだ。しかも最初は失敗して、子どもを舟で流し、上司みたいな神に相談してからやり直す。国の始まりがもう家庭内会議と分娩室の混合事故だ。

海を混ぜたら島ができた

マサ
マサ
まずイザナギとイザナミや。上の神から、まだふわふわ漂ってる地上を固めてこいって言われる。地球の基礎工事を二人に丸投げや。現場監督なら朝礼でざわつく案件なんよ。
ヤマト
ヤマト
今日の作業、世界を固める日。
だいち
だいち
スケールでかすぎて安全帯いらない気がする。
マサ
マサ
二人は天の浮橋って場所に立って、天の沼矛って矛を海に突っ込む。ほんでぐるぐるかき混ぜる。味噌汁の味噌を溶くみたいに混ぜるけど、相手は原初の海や。
さやか
さやか
最初の道具が矛なの、もう男神と女神の話に向かう感じがある。
マサ
マサ
さやか、入口から鋭いな。矛を引き上げると、先から塩がぽたぽた落ちる。その塩が固まって島になる。これがオノゴロ島。名前の響きも、なんか熱い鉄が冷えて固まる感じあるやろ。
だいち
だいち
オノゴロ島って実在の場所なの?
マサ
マサ
淡路島の近くとか、沼島とか、いろいろ言われてる。中には大阪湾あたりって見る説もある。ここ大事な。大阪湾あたり。つまり俺からしたら、ほぼ地元やねん。
ヤマト
ヤマト
出た、神話の地元マウント。
マサ
マサ
いやこれは許してくれ。普通、地元の自慢て甲子園出た先輩とかやん。こっちは国土の初期ロットやから。強すぎる。
だいち
だいち
大阪湾の見方がもう戻らない。
マサ
マサ
諸説あるから断定はせえへん。でも、候補地が身近な海に重なるだけで、神話が急に地図アプリの距離感になる。そこが古事記の怖いとこや。
ヤマトが笑いながら唐揚げを取る。
さやか
さやか
初期ロットの日本、言い方が工場。
マサ
マサ
二人はそのオノゴロ島に降りる。そして天の御柱って柱と、八尋殿って建物を立てる。いよいよ新居や。
国の始まり、まず同棲物件の施工から入る。柱が立って、建物ができて、そこで初めて二人の体の話が始まる。神話のくせに段取りが妙に現場っぽいんよ。
だいち
だいち
神話なのに急に生活感が出る。
マサ
マサ
決めの一言や。日本列島の最初の足場は、オノゴロ島に立った一本の柱やねん。

柱を回ってセックス会議

マサ
マサ
ほんで二人は、この柱のまわりを反対方向に回る。出会ったところで声をかける。婚活イベントみたいやけど、参加者二人、会場は世界初の島や。
ヤマト
ヤマト
マッチング成立率100パーじゃん。
マサ
マサ
ここでイザナミが先に、ああいい男、みたいに声をかける。イザナギも、ああいい女、みたいに返す。で、体の話になる。
お前の体はどうなってる、俺の体は余ってる所がある、お前には足りない所がある。じゃあ俺の余ってる所を、お前の足りない所に刺して塞いで、国を産もうや、と。
だいち
だいち
想像よりそのまま言うんだ。
さやか
さやか
妊娠の説明としては原始的だけど、性と出産が国の始まりに直結してるのはすごい。
マサ
マサ
ぼかすと逆にわからんからな。古事記のここはセックスで国を産む話や。変に上品ぶってもしゃあない。日本列島の始まりは、神さま同士の体の話から始まる。
だいち
だいち
国土の説明がいきなり体の説明になるの、教科書で抜け落ちる部分だ。
マサ
マサ
そう。ここを抜くと、国生みの生々しさが消える。神話はきれいな地図を机に置くんやなく、体から島が出てくる感覚で始まるんよ。
国土を頭で理解する前に、まず体の余りと足りなさで説明してくる。そこが野蛮で、同時に忘れにくい。
ヤマト
ヤマト
地理の授業でそこまで言われたら全員起きる。
マサ
マサ
で、二人はセックスする。ほんで最初に生まれたのがヒルコ。でもこの子はちゃんとした子として扱われない。次のアハシマも数に入れない。つまり最初の試みは失敗扱いや。
だいち
だいち
なんで失敗したの?
マサ
マサ
二人が上の神に相談したら、女のイザナミが先に声をかけたのが良くなかった、男から先に声をかけろって言われる。今の感覚からすると引っかかる部分やけど、古代の秩序観がそのまま出てる。
物語の事実として、二人は手順を変えてやり直す。
さやかの箸が一瞬止まる。
さやか
さやか
ここ、出産の失敗を女性の声かけ順に結びつけるのは、かなり時代の価値観が出てるね。
マサ
マサ
そうやねん。笑えるけど、笑って終わらせると薄い。古事記は古い社会の考えもそのまま乗ってる。だから飲み会で話すときも、ここは昔のルールとして受け止めるところや。
ヤマト
ヤマト
神話、急に人間社会のクセが出る。
マサ
マサ
決めの一言。柱を一周しただけで、恋愛、性、出産、時代の価値観まで全部出る。濃すぎる一周や。

ヒルコを流して列島が産まれる

マサ
マサ
ここで一回聞くで。最初の子ヒルコがうまく育たへんかった二人、次なにしたと思う?
ヤマト
ヤマト
病院行く。
さやか
さやか
助産師としては健診に来てほしい。
だいち
だいち
上の神に再相談?
マサが小さく首を振る。
マサ
マサ
ヒルコを葦の舟に乗せて流す。きついやろ。古事記、そこはかなり淡々としてる。かわいそうな場面を長く泣かせにこない。すっと流して、次へ行く。
だいち
だいち
それは重い。
さやか
さやか
出生の話として聞くと、かなり痛い場面だね。
マサ
マサ
ほんで手順を直す。今度はイザナギから先に声をかける。ああいい女や、って言う。イザナミも返す。そこで改めてセックスして、いよいよ国が産まれる。
ヤマト
ヤマト
やっと本編スタート。
マサ
マサ
最初が淡路島。これがまた関西圏としては熱い。オノゴロ島も大阪湾あたり説があって、最初に生まれるのが淡路島。もう神話の地図、関西から景気よく始まってるんよ。ほぼ地元の誇りが止まらん。
さやか
さやか
淡路島から順に産まれるって、地図の暗記よりずっと体に残るね。
だいち
だいち
また地元回収した。
マサ
マサ
そのあと四国、隠岐、九州、壱岐、対馬、佐渡、本州。これで大八島国、つまり日本の大枠ができる。国って言うても最初は島として産まれていく。地図を描くんじゃなくて、産声が上がる感じや。
さやか
さやか
列島を出産として見ると、地理が急に身体感覚になる。
マサ
マサ
さらに島だけやなく、風、木、山、野、海、川、いろんな神も産む。夫婦で国土と自然の部署を次々作っていく。会社の立ち上げで、総務も営業も現場も全部同じ夫婦が産んでる状態や。
ヤマト
ヤマト
創業メンバー二人で業務量えぐい。
マサ
マサ
決めの一言。日本列島は描かれたんちゃう、イザナギとイザナミの体からポコポコ産まれたんや。

火の神で夫婦が終わる

マサ
マサ
国も神も産んで、順調に見えるやろ。ところが最後に火の神カグツチを産む。火やからな。出産の場面としては最悪の属性や。
さやか
さやか
火を産むって、比喩じゃなく命に関わるやつだ。
マサ
マサ
イザナミは大やけどを負って苦しむ。その苦しみの中で、吐いたもの、尿、うんこからも神が生まれる。古事記は体液も排泄も神の材料にする。
きれいなところだけ切り取らない。命の現場を全部出す。
ヤマト
ヤマト
神話の衛生観念、だいぶワイルド。
マサ
マサ
で、イザナミは死ぬ。国を産んだ母が、火の子を産んで死ぬ。ここでイザナギが崩れる。愛する妻を失って泣く。その涙からも神が生まれる。悲しみまで神になる。
だいち
だいち
体から出るもの全部が世界に変わるんだ。
マサ
マサ
ほんでこいつ、次なにしたと思う?自分の子どもやで。火の神カグツチに対して。
ヤマト
ヤマト
怒鳴る。
だいち
だいち
封印する。
さやか
さやか
抱けないから距離を取るとか。
ジョッキが止まる。
マサ
マサ
斬る。イザナギは剣を抜いて、我が子カグツチを斬る。するとその血や体から、また神が生まれる。悲しみと怒りがそのまま次の神々の材料になる。
ヤマト
ヤマト
親子げんかのレベルじゃない。
さやか
さやか
喪失の怒りが子に向かうの、神話だけど人間っぽくて怖い。
マサ
マサ
イザナギはそれでもイザナミを諦められない。この後、黄泉の国へ妻を迎えに行く。国生みの明るさが一気に地下へ落ちる。セックスで始まった夫婦の話が、死体を見るなというホラーへ変わるんや。
だいち
だいち
出生の話がそのまま死の話につながるの、逃げ場がない。
次の話、完全に続きものだ。
マサ
マサ
決めの一言。日本列島の出生届は父イザナギ、母イザナミ、そして欄外に火傷と涙と剣の血がにじんでる。きれいな建国神話やと思って開くと、最初から産声と悲鳴が同じページに載ってるんや。
ほぼ地元の海から始まった話が、最後は黄泉まで落ちる。この落差が古事記の入口や。国の始まりがもう、笑い話だけでは済まない。

暗記用

これだけ覚えたら、教養人の顔で会話に入れるフレーズ

口に出す時は、言葉と読みをセットで覚えると強い。

  1. イザナギとイザナミいざなぎといざなみ

    日本列島を産んだ夫婦神。国産みの主役。

  2. オノゴロ島おのごろじま

    矛で海をかき混ぜて最初にできた島。大阪湾あたりという説も。

  3. 国生みくにうみ

    夫婦神のセックスで島を産むという、日本列島の出生の話。

  4. ヒルコひるこ

    最初に生まれて葦舟で流された子。のちに恵比寿様と結びつく伝えも。

よくある質問

Q. 国生みとは何か?
A. イザナギとイザナミがオノゴロ島でセックスし、日本列島の島々や自然の神々を産む古事記の始まりの物語だ。
Q. オノゴロ島はどこにある?
A. 淡路島周辺、沼島、大阪湾あたりなど複数の説がある。古事記ではイザナギとイザナミが最初に降り立つ島として語られる。
Q. ヒルコとは誰か?
A. イザナギとイザナミの最初の子だが、うまく育たない子として葦の舟に乗せて流される。のちの列島誕生の前段に置かれる存在だ。
Q. なぜ国生みはやり直しになる?
A. 一回目はイザナミが先に声をかけたため良くないとされ、上の神々に相談して、イザナギから声をかける形でやり直す。
Q. カグツチとは何の神か?
A. 火の神だ。イザナミはカグツチを産んだことで大やけどを負って死に、怒ったイザナギはカグツチを斬る。

次に読む

もし現代でやったらコンプライアンス違反疑惑度★★★★

初夜の前に婚姻届が出せない二人

  • 民法734条一定の近親者の間での婚姻を禁止する規定。
  • 刑法199条人を殺した者に科される罪の規定(殺人)。
  • 刑法218条高齢者や幼児、病者などを保護する責任のある者が、その保護を怠り遺棄等を行う行為に関する規定。
  • 児童虐待防止法児童に対する虐待の防止や、被害を受けた児童の保護などを定める法律。
  • 公有水面埋立法

元になった物語の出来事に、現代日本の実在する法令を当てはめたらどの条文に触れうるか、という読み物としての見立てです。条文番号だけを並べています。

入試に出た

この作品が実際の大学・高校入試でどう問われたかを、出典を明記して紹介します。

  • 大学入学共通テスト 倫理2023倫理(第2問 日本の思想)

    出典: 古事記・記紀神話

    第2問(日本思想)の問2で、イザナミとイザナギの国生み、天つ神、「祀るとともに祀られる神」など記紀神話の神々の性格に踏み込んだ正誤4択が出た。東進の設問別分析が「突っ込んだ内容で難しかった」と評した問題。

    答えの要点:押さえるのは2点。(1)イザナギ・イザナミは自分の思いつきではなく、高天原の天つ神たちに「漂っている国土を固め成せ」と命じられて矛で海をかき回し国生みをした(命令する上位の神→実行する二神、という構図)。(2)日本の神は人間から祀られるだけでなく、自らもさらに上位の神を祀る「祀るとともに祀られる神」であり、キリスト教のような唯一絶対の創造神ではない(和辻哲郎が指摘した日本の神の性格として倫理教科書に載る定番)。この2点を知っていれば選択肢が切れる。

  • センター試験・共通テスト 日本史(定番テーマ)複数年度で頻出日本史B・日本史探究(奈良時代の文化)

    出典: 古事記・日本書紀(記紀)

    古事記と日本書紀の編纂事情の正誤問題・整序問題。いつ、どの天皇の命で、誰がどう作ったか、両書の違いは何か。受験対策サイトでは「712年・稗田阿礼・太安万侶」のセットは最頻出の定番知識とされる。

    答えの要点:古事記は712年完成。天武天皇が稗田阿礼に帝紀・旧辞を誦習(暗誦)させ、天武の死後、元明天皇の命で太安万侶がそれを筆録して献上した。「阿礼が語り、安万侶が書く」のペアと「命じた天皇は天武と元明の2人」を押さえる。対比で日本書紀は720年、舎人親王らの編纂による漢文・編年体の正史。この対比(古事記=国内向け神話中心、日本書紀=対外を意識した正史)で正誤が切れる。

腕試し(オリジナル問題)

過去問の丸写しではなく、この記事のために作った自作の練習問題です。腕試しにどうぞ。

問1イザナギとイザナミの国生みで、最初の子ヒルコが生まれたあと2神はどうしたか。その原因は何とされたか。

問2イザナミの死因と、その直後にイザナギがとった行動を述べよ。