第1夜 ギリシャ神話 その13

オデュッセウス、帰宅に10年かかった男

家に帰るだけで20年かかった男がいる。戦争で10年、帰り道で10年。しかも道に迷っただけじゃない。一つ目巨人に部下を食われ、魔女とセックスして1年止まり、歌う怪物に呼ばれ、海の神に粘着される。賢いのに欲と見栄でブレーキが緩む男、オデュッセウスの地獄の帰宅。

オデュッセウスはなぜ帰宅に20年かかったのか

ユウマ
ユウマ
聞いて。オデュッセウスって、家に帰るだけで20年かかった男なのよ。トロイア戦争で10年、帰り道で10年。家出した中学生でも途中で親に捕まる長さwww
あおい
あおい
20年はもう帰る気ないと思われるやつ。
ユウマ
ユウマ
しかもこいつ、イタケって島の王様。妻はペネロペ、息子はテレマコス。家ではその2人が待ってる。
戦争ではめちゃ有能で、トロイア戦争を勝たせた側の知恵者。木馬の作戦もこの人の名前で語られる。ここまでは勝ち組の王。
で、この話はホメロスっていう古代ギリシャの詩人が書いたとされる長い詩、『オデュッセイア』。テーマをひと言で言うと帰郷、つまり家に帰る話。すごいよね。
テーマはただの帰宅。なのに帰り道が、一つ目巨人、魔女、歌う怪物、海神の粘着。家の方向に向かってるのに、どこ寄り道してんだよってなる。
だいすけ
だいすけ
帰宅でそんな敵出るのやば。
ユウマ
ユウマ
オデュッセウスの面白さは、バカじゃないとこ。むしろ賢すぎる。口もうまい、作戦も立つ、度胸もある。なのに欲のブレーキだけたまに壊れる。
助かりたい、でもドヤりたい。帰りたい、でも美人の魔女とセックスしたら腰が重い。家族は大事、でも今夜の飯とベッドも大事。賢すぎるのに欲のブレーキだけ緩い友達、これがオデュッセウス。
ハル
ハル
いるな、仕事できるのに終電だけ毎回逃すやつ。
グラスが一回止まる。
ユウマ
ユウマ
古代ギリシャ最強の帰る帰る詐欺、始まるぞwwww

キュクロプスで何をやらかしたのか

ユウマ
ユウマ
最初の大事故がキュクロプス。額に目が一個だけある巨人の種族ね。オデュッセウス一行が島に着いて、ポリュペモスって巨人の洞窟に入る。チーズある、羊いる、家主いない。
普通は人んちだわ、帰ろ、じゃん。でもこいつらは待つ。知らん家の冷蔵庫あさって家主の帰宅を待つノリ。もう最悪の客。
だいすけ
だいすけ
チーズ触った時点でアウト。
ユウマ
ユウマ
そこへポリュペモス帰宅。入口を岩でゴロン。逃げ道ゼロ。で、接客が最悪。部下をつかんで、床に叩きつけて、ムシャ。人を食う。レビュー星1とかじゃない。店主が客を食ってる。
ここでオデュッセウスはワインを飲ませて酔わせる。名前を聞かれて、『俺は誰でもない』って名乗る。この『誰でもない』がギリシャ語でウーティス。
ここ大事。偽名として相手を油断させるだけじゃなくて、あとで効く罠になってる。
ポリュペモスが寝た隙に、焼いた杭を目にズボッ。巨人が『ウーティスにやられた、誰でもないにやられた』って叫ぶ。近所の巨人が来る。でも耳に入るのは『誰にもやられてない』。
じゃあ寝ろよ、で帰る。偽名が、油断させる役と、追っ手を勘違いさせる役の二役。知略100点。
あおい
あおい
詐欺ネーム強すぎるwww
ユウマ
ユウマ
逃げ方もえぐい。羊の腹の下に部下をくくりつける。ポリュペモスは目が見えないから、羊の背中だけ触って外に出す。人間は腹の下。これで脱出。ここまで完璧。で、こいつ次に何したと思う?
ハル
ハル
静かに帰れ。頼むから静かに帰れ。
だいすけ
だいすけ
部下に土下座。
ユウマが船の手すりを握る真似をする。
ユウマ
ユウマ
遠くから本名フルネーム絶叫。『俺はオデュッセウスだあああ』。バカ。名刺を海に投げるなwwww
しかもポリュペモスは海神ポセイドンの息子。父ちゃんに、あいつを家に帰らせるな、帰れても遅らせろ、仲間も失わせろ、って祈る。ここで帰宅10年コース確定。見栄が一番高くついた。

魔女キルケはなぜ帰宅を止めたのか

ユウマ
ユウマ
次に着くのがアイアイエ島。そこにいるのが魔女キルケ。美人、歌う、家に招く、飯を出す。ここだけ聞くと最高の宿。
でも飲み物に薬を入れて、男たちを豚に変える。悪口の豚じゃない。本体が豚。鼻ブヒ、足ヒヅメ、部下全員が豚小屋行き。
あおい
あおい
歓迎ドリンクが怖すぎる。
ユウマ
ユウマ
ここでヘルメスが出る。神々の使いで、旅人も助けるやつ。薬草をくれて、キルケの魔法を防げるようにする。オデュッセウスは乗り込む。薬を盛られる。
効かない。キルケびびる。交渉して部下を人間に戻させる。ここまでは英雄。めちゃくちゃかっこいい。
問題はここから。こいつ、キルケとセックスして1年いる。帰宅の途中で1年。
妻ペネロペと息子テレマコスが待ってるのに、飯うまい、安全、ベッドふかふか、魔女が美人。オデュッセウスの予定表、ちんこで破られてる。
だいすけ
だいすけ
部下からしたら豚にされたうえに延泊は地獄。
ユウマ
ユウマ
しかもキルケって単なる敵で終わらない。出発する時、この先の危ない場所を教えてくれる。セイレーンっていう歌で船乗りを殺すやつ、スキュラって怪物、カリュブディスって大渦。
豚に変える一方で、攻略情報はくれる。最悪の宿なのに、チェックアウトの時だけめちゃ親切。
ハル
ハル
感情が追いつかない宿だな。
ユウマ
ユウマ
オデュッセウスは怪物には作戦で勝つ。でも快適な島には腰で負けかける。神話って偉いよね。英雄の剣より、ふかふかのベッドのほうが強いってちゃんと書く。
だいすけが空の皿をそっと下げる。
ユウマ
ユウマ
帰宅の途中で長期の温泉不倫を挟むなwwww

セイレーンの歌はなぜ危なかったのか

ユウマ
ユウマ
キルケの島を出る時、次の地雷がわかる。セイレーン。歌がうますぎる海の怪物。聞いた船乗りはフラフラ寄っていって死ぬ。
歌がうますぎて寄ってって死ぬ。素朴に怖い。カラオケで上手いとかの次元じゃない。聞いたら船ごと人生終了。
だいすけ
だいすけ
歌唱力で殺すの反則だろ。
ユウマ
ユウマ
対策がまた最高なのよ。部下には耳に蜜蝋を詰めさせる。蜜蝋って、蜂の巣から取れる蝋ね。昔の耳栓。
で、自分だけマスト、船の真ん中の柱に縛られる。しかも先に命令する。俺がほどけって暴れても絶対ほどくな。
あおい
あおい
自分を信用してないのえらい。
ユウマ
ユウマ
そう。ここが賢い。オデュッセウスは聞きたいのよ。危ないのはわかってる。でも聞きたい。
だから、聞く自分と動く自分を分けた。耳は欲しがる。でも体は縛る。欲望に勝つんじゃなくて、負けた後の自分を動けなくする。
で、歌が来る。オデュッセウスは本当に暴れる。ほどけ、行かせろ、って叫ぶ。部下は耳栓してるから聞こえない。さらに縛る。上司の暴走を体張って止める部下。めちゃ有能。
ハル
ハル
それは部下が偉い。
ユウマ
ユウマ
清い心で勝つんじゃない。人間どうせ負けるから、負けた瞬間の自分にハンドルを渡さない。ここだけはまじで学べる。
スマホ、深夜の通販、元恋人のアイコン、全部この発想でいい。見るなじゃなくて、見た後の自分を信じるな。
全員ちょっと自分のスマホを見る。
ユウマ
ユウマ
耳栓した友達に自分を縛らせる、これが古代ギリシャ最強のライフハックwww

ポセイドンの怒りで帰郷はどうなったのか

ユウマ
ユウマ
セイレーンを越えても終わらない。海がまだキレてる。そりゃそう。ポセイドンの息子に杭を入れて、本名叫んだ男だから。海の神に嫌われてるのに移動が全部海。
そこからスキュラとカリュブディスの間を通る。スキュラは人を食う怪物。カリュブディスは船を吸い込む大渦。片方を避ければ、もう片方に近づく。どっちもまずい板挟み。
あおい
あおい
逃げ道まで性格悪い。
ユウマ
ユウマ
さらに部下が太陽神ヘリオスの牛を食う。神の牛だぞ。腹減ってるのはわかる。でも神の家畜に手を出すな。
冷蔵庫の名前付きプリンじゃない。結果、船は壊れる。仲間も失う。オデュッセウス、ひとり漂流。
流れ着くのが女神カリュプソの島。カリュプソはオデュッセウスを気に入って、島に留める。しかも7年。
さっきキルケで1年止まったじゃん。それが今度は7年。快適だと腰が重くなる癖、悪化してるwww
だいすけ
だいすけ
帰宅後の説明、全部言い訳に聞こえるな。
ユウマ
ユウマ
カリュプソは不死までちらつかせる。年を取らない、死なない、美しい女神と島暮らし。福利厚生が強すぎる。
でも最後、オデュッセウスは断る。神々の会議でも、もう帰してやれって話になって、やっとイタケ行きが動く。20年越しの帰宅ボタン、やっと押される。
で、戻ったら家が終わってる。妻ペネロペに求婚者が群がってる。しかもオデュッセウスの家で飯を食い、酒を飲み、結婚を迫ってる。留守の家に知らん男が居座って、妻に結婚迫ってる。素で異常。
ハル
ハル
帰ってそれ見たら普通に血の気引く。
ユウマ
ユウマ
オデュッセウスはすぐ名乗らない。身分を隠して様子を見る。で、弓の試練。こいつにしか扱えない弓を引く場面で、正体が出る。
キュクロプスの時は遠くから本名叫んで地獄を呼んだ。でも今度の『俺だ』は違う。ここは家を取り戻すための『俺だ』。ドヤり癖、やっと正しい場所で使われた。
そして求婚者たちを討つ。これで全部が戻る。怪物に勝ちたいんじゃない。女神と暮らしたいんじゃない。
俺の家、俺の妻、俺の席を取り戻したいだけ。そこが人間の欲の真ん中なのよ。きれいな夢じゃない。自分の場所を返せ、知らん男は出ていけ、って話。
ユウマが見えない玄関を開ける。
ユウマ
ユウマ
20年かけて帰って最初の仕事は、居間の知らん男どもの強制退去wwww

暗記用

これだけ覚えたら、教養人の顔で会話に入れるフレーズ

口に出す時は、言葉と読みをセットで覚えると強い。

  1. オデュッセウスおでゅっせうす

    知恵としぶとさの英雄。帰宅に十年かかる男。

  2. キュクロプスきゅくろぷす

    一つ目の巨人。オデュッセウスの機転が光る相手。

  3. セイレーンせいれーん

    歌で船乗りを引き寄せる存在。誘惑の比喩として定番。

  4. ペネロペぺねろぺ

    帰りを待つ妻。知恵で求婚者たちをかわし続ける。

よくある質問

Q. オデュッセウスって誰?
A. イタケの王。妻はペネロペ、息子はテレマコス。トロイア戦争で活躍した知恵者だけど、見栄と欲で帰り道を地獄にした男。
Q. なんで帰宅に10年もかかった?
A. 一番でかいのは、キュクロプスのポリュペモスの目を潰したあと本名を叫んで、父の海神ポセイドンを怒らせたこと。そこに怪物、魔女、セイレーン、女神の足止めが乗った。
Q. キルケは敵なの?
A. 部下を豚に変えるから普通に危険。でも出発時にはセイレーン、スキュラ、カリュブディスの情報もくれる。最悪の宿なのに、帰り際だけ親切なややこしい魔女。
Q. セイレーンの場面は何が面白い?
A. オデュッセウスは誘惑に勝ったんじゃない。負ける前提で、自分をマストに縛らせた。欲に強い人の話じゃなくて、欲に弱い自分を先に捕まえる話。
Q. 『オデュッセイア』の中心は何?
A. 帰郷。怪物退治より、女神との島暮らしより、自分の家、妻、席を取り戻すこと。20年かけた強制退去の物語。

次に読む

もし現代でやったらコンプライアンス違反疑惑度★★★★★

帰宅して即、大立ち回り

  • 刑法130条正当な理由なく他人の住居や建物に侵入する行為などに関する規定(住居侵入等)。
  • 刑法199条人を殺した者に科される罪の規定(殺人)。
  • 刑法204条人の身体を傷害した者を処罰する規定(傷害)。
  • 刑法235条他人の財物を盗み取る行為に関する規定(窃盗)。
  • 刑法240条強盗が人を負傷させ、または死亡させた場合に関する規定(強盗致死傷)。

元になった物語の出来事に、現代日本の実在する法令を当てはめたらどの条文に触れうるか、という読み物としての見立てです。条文番号だけを並べています。

入試に出た

この作品が実際の大学・高校入試でどう問われたかを、出典を明記して紹介します。

  • OCR Aレベル(英国) 古典文明古典文明 H408/11「英雄の世界(The World of the Hero)」

    出典: ホメロス『オデュッセイア』(『イリアス』との選択)

    必修の規定読解作品としてホメロスの叙事詩を扱い、叙事詩がどう作られたか、作品に表れた当時の宗教・社会・文化の価値観、英雄像を、本文の場面を根拠に記述式で論じさせる。

    答えの要点:正解の核は次の三点を本文の場面と結びつけて書くこと。第一に成立の仕方。『オデュッセイア』は文字以前の口承で、吟唱詩人が決まり文句や繰り返しの形容句(知略にたけたオデュッセウスなど)を組み合わせて歌った歌が元になっている。だから定型表現や同じ場面の反復が多い。第二に価値観。客を手厚くもてなす義務であるクセニア(主人は飯と寝床と土産を出し、客は礼を守る)、武勲や評判で名を残すこと、そして家に帰ることそのものの重さ。神々が人の運命に直接介入するのも当時の世界観として外せない。第三に英雄像。腕力一辺倒ではなく知略と弁舌でうわまわる新しい英雄として、巨人を偽名と杭で出し抜くオデュッセウスを挙げる。一方で見栄から本名を叫び災いを招く弱さも併せて書くと、欠点も込みで描かれる英雄像という採点の要点を押さえられる。

  • OCR GCSE(英国) 古典文明古典文明 J199/21「ホメロスの世界」

    出典: ホメロス『オデュッセイア』(キュクロプスのポリュペモスの段を含む)

    キュクロプスの段などを規定の場面として、オデュッセウスの人物像と、客をもてなす義務(クセニア)に表れたギリシア社会の価値観を、本文を根拠に説明させる。

    答えの要点:正解には次を本文の場面とセットで書く。人物像としては、酒で巨人を酔わせ「俺は誰でもない」と名乗って杭で目を潰し、羊の腹の下に隠れて脱出する知略と度胸を挙げる。同時に、安全になった船から本名と素性を叫んでポセイドンの復讐を呼び込む見栄の強さも欠点として示す。クセニアの説明は、主人は招いた客に食事と寝床と土産を与え無事に送り出す義務があり、客の側も礼節を守る、という双方向の掟だと述べる。ポリュペモスはこの掟をことごとく破る。客を歓待するどころか部下を食い、客が当然期待する土産として与えるのは「お前を最後に食ってやる」という言葉だけ。この違反ぶりを具体例で挙げ、まともな社会の基準を巨人がいかに踏みにじっているかを対比で書くと、ギリシア社会がクセニアをどれだけ重んじたかという問いの核心に答えられる。

  • OCR GCSE/Aレベル(英国) 古典ギリシア語古典ギリシア語 原典講読

    出典: ホメロス『オデュッセイア』(原文の規定箇所)

    古代ギリシア語の原典を訳読する規定教材として採用され、原文の和訳を通じて文法・語彙の理解と、場面の内容把握を問う。

    答えの要点:正解のために必要なのは、ホメロスの言葉の癖を踏まえて原文を正確に訳すこと。叙事詩はホメロス特有の古い方言で書かれ、語形が後の散文ギリシア語と違う点や、人物につく決まり文句の形容句(知略にたけた、足の速いなど)が繰り返し出ることを理解しておく。動詞の時制や格変化を取り違えず、固有名の人物関係(誰が誰に何をしたか)を外さずに訳せれば、内容把握の設問にも答えられる。形容句や定型表現は飾りでなく、口承で歌うための部品だと押さえると、文法問題と内容問題の両方で得点しやすい。

腕試し(オリジナル問題)

過去問の丸写しではなく、この記事のために作った自作の練習問題です。腕試しにどうぞ。

問1オデュッセウスがポリュペモスに名を聞かれて「俺は誰でもない」と答えたことは、洞窟からの脱出に二重の意味で役立った。どのように効いたか説明せよ。また、その後イタケへ向かう船から本名を叫んだ行為が、なぜ脱出時の機転をすべて台無しにしたのかも述べよ。

問2セイレーンの場面でオデュッセウスがとった対策(部下に耳をふさがせ、自分は柱に縛らせ、暴れてもほどくなと先に命じる)は、「自分は誘惑に強い」という前提に立っていない。では何を前提にした対策か。意思の弱さと事前の取り決めという観点から説明せよ。

問3女神カリュプソはオデュッセウスに不死と永遠の若さ、快適な暮らしを与えると申し出たが、彼はそれを断って故郷イタケへの帰還を選んだ。この選択が『オデュッセイア』全体の主題とどう結びつくかを、一文で述べよ。