第6夜 norse その1

ギンヌンガガプとユミル。世界は巨人の死体でできている

世界の始まりが、神の一声じゃなくて、空っぽの裂け目に氷と火をぶつけたら巨人が出る話。しかも人間は土からこねた完成品じゃなくて、海辺の流木スタート。北欧、天地創造の時点で材料管理が雑すぎる。

裂け目で始まる温度差キッチン

リョウタが紙ナプキンの真ん中を指で押して、ぽこっと穴を作る。
リョウタ
リョウタ
最初に言っとくと、北欧の世界創造、スタートがだいぶ変。神がよし作るかじゃない。何もない巨大な裂け目に、氷の世界と火の世界を近づけたら、しずくが出て、そこから巨人が生まれる。
ナギ
ナギ
初手から料理の失敗みたいwww
リョウタ
リョウタ
その裂け目がギンヌンガガプ。名前はめちゃくちゃ強い。ラスボスの技名みたい。でも中身は、世界ができる前の巨大なすき間。がらんどう。
カイト
カイト
名前の圧と中身の空っぽ具合が合ってないwww
リョウタ
リョウタ
片側がニヴルヘイム。氷と霧の寒い世界。もう片側がムスペルヘイム。火の世界。この二つが近づいて、氷が溶ける。そのしずくから原初の巨人ユミルが出る。
マオ
マオ
え、火と氷をぶつけたら巨人なの? そこ急すぎない?www
リョウタ
リョウタ
急すぎる。でも神話はここを顔色ひとつ変えずに通る。光あれ、じゃない。温度差あれ。そしたら巨人出た。
ナギ
ナギ
温度差キッチンの新メニュー、ユミルwww
リョウタ
リョウタ
要は冷凍庫と鉄板焼きの間に置いた謎の空間。そこで世界の第一号が生まれる。北欧は、神聖な白い光より先に、寒さと熱さのぶつかり合いを出してくる。
カイト
カイト
理科っぽいのに結果が巨人なの、計算式が途中で酔ってる
リョウタ
リョウタ
しかもこのユミル、ただの登場人物じゃない。あとで世界づくりの材料になる。最初に出てきたやつを最後まで使い切る。伏線というより、仕入れ。
マオ
マオ
天地創造で仕入れって言うなwww
リョウタ
リョウタ
でも覚え方はこれでいい。ギンヌンガガプは、でかい裂け目。左に氷、右に火。真ん中でしずく。そこからユミル。北欧の世界は、空っぽのすき間に温度差をぶち込むところから始まる。

牛が氷を舐めて神の祖先が出る

リョウタ
リョウタ
で、ユミルは原初の巨人。ここから霜の巨人たちが生まれて、のちの巨人族につながっていく。神々とずっと揉める側のご先祖だな。
カイト
カイト
最初に出た巨人が、後の敵チームの元なのか
リョウタ
リョウタ
そう。で、もう一体めちゃくちゃ大事なのがいる。原初の牝牛、アウズンブラ。ユミルを乳で養う牛。世界がまだちゃんとできてないのに、牛だけはもう現場入りしてる。
ナギ
ナギ
宇宙創世のスタッフに牛がいるの好きwww
リョウタ
リョウタ
しかもこの牛、塩気のある氷をペロペロ舐める。三日かけて舐める。そしたら氷の中からブーリっていう神々の祖先が出てくる。
マオ
マオ
牛が氷舐めて祖先発掘するの、絵がゆるすぎるwww
リョウタ
リョウタ
一日目に髪が出る。二日目に頭が出る。三日目に全身が出る。完全に氷の中から人がログインしてくる感じ。パスワードは牛の舌。
カイト
カイト
認証方法が原始的すぎる
ナギ
ナギ
ログイン音、モーだろwww
リョウタ
リョウタ
ここが北欧神話の変なところで、スケールは宇宙なのに作業がすごく手元なんだよ。氷を舐める。乳で養う。しずくから生まれる。でかい話なのに、やってることが台所と牧場。
マオ
マオ
神々の祖先が牛のペロペロ待ちなの、だいぶ腰低いwww
リョウタ
リョウタ
ブーリから神々の家系が続く。ブーリの孫に、オーディン、ヴィリ、ヴェの三兄弟が出てくる。北欧神話の主役級、オーディンはここでようやく家系図に入ってくる。
カイト
カイト
氷と火と牛を通過しないとオーディンに届かないのか
リョウタ
リョウタ
そう。いきなり主神がどん、じゃない。まず裂け目、氷、火、巨人、牛、ペロペロ三日間。神々の前に変な前座が多い。
ナギ
ナギ
前座が濃すぎて主神が遅刻したみたいwww

三兄弟、最初の大仕事が世界づくり

リョウタ
リョウタ
じゃあここで問題。ブーリの孫、オーディン、ヴィリ、ヴェの三兄弟が出てきて、創世のために最初に何したと思う?
カイト
カイト
設計図を引く?
ナギ
ナギ
神っぽく会議?
マオ
マオ
とりあえず場所決め? 家建てる前のやつ
リョウタ
リョウタ
ユミルを倒す。
一瞬、テーブルが止まる。
ナギ
ナギ
会議じゃなかったwww
カイト
カイト
創世の最初のタスクが討伐なの、工程表が強すぎる
リョウタ
リョウタ
ここはさらっと行くぞ。三兄弟はユミルを倒して、その一体を材料にする。大地、海、山、空みたいな、世界のいろんなものをそこから組み立てた、と語られる。
細かい材料表は今夜はいらない。要点は、一体まるごとで世界を作ったってこと。
マオ
マオ
そこをさらっと流しても、発想のスケールは全然さらっとしてないwww
リョウタ
リョウタ
だろ。普通は世界を作るって言ったら、土台を作って、空を作って、海を作って、みたいに神様の建設会社を想像する。
でも北欧は、最初に出てきた巨人を使って世界一式を組む。家具を買う前に、家そのものを一個の材料から作る感じ。
ナギ
ナギ
大型家具屋でもそこまでやらないwww
リョウタ
リョウタ
で、大事なのが、これで巨人族が完全に消えるわけじゃないってこと。ベルゲルミルという名前で語られる生き残りもいて、そこから巨人族が続く。後で神々の敵として何度も出てくる。
カイト
カイト
初期設定の時点でバグ残してるじゃん
リョウタ
リョウタ
まさにそれ。世界を作りました。はい平和です、じゃない。世界ができた瞬間から、神々のライバルも残ってる。北欧神話は、完成品の箱を開けたら最初からトラブルの保証書が入ってる。
マオ
マオ
新品なのに保証書が不穏すぎるwww
リョウタ
リョウタ
だから北欧の世界は、きれいな完成品じゃなくて、最初から揉めごと込みで動き出す。ユミル、神々、巨人族。この三つを覚えたら、後の北欧神話がかなり見やすくなる。
ナギ
ナギ
世界づくりなのに人間関係がもう面倒くさい
リョウタ
リョウタ
そう。スケールは宇宙なのに中身は親戚トラブル。北欧、でかい話をするときも結局そこが人間くさい。

人間、海辺の拾い物から起動

リョウタ
リョウタ
世界ができたあと、神々は人間を作る。で、ここも変。土をこねるんじゃない。海辺で二本の流木を拾う。そこから最初の男女、アスクとエンブラを作る。
マオ
マオ
え、人間そこから始まるの? 漂着物スタート?www
カイト
カイト
素材の調達がそのへんの浜辺なの、急に現場感ある
リョウタ
リョウタ
アスクはトネリコなど木の名前として語られる。エンブラも木に関わる名とされる。神々がその流木に、息、精神や知恵、感覚や血色を与える。すると人間が動き出す。
ナギ
ナギ
木材にアップデート入れて人間にしたみたいwww
リョウタ
リョウタ
そう。素材は浜辺の木。でも起動ボタンは神。
これ、雑に見えるけどけっこう好きなんだよ。人間って、最初から王様みたいに作られるんじゃなくて、波打ち際に転がってたものが、息をもらって立ち上がる。
マオ
マオ
急にちょっと良い話にするじゃん
リョウタ
リョウタ
でも同時に、だいぶ雑でもある。俺らの出発点、神の高級工房じゃなくて海辺の拾い物。生まれが木なら、飲み会で床に寝ても、まあ原点回帰だな。
ナギ
ナギ
酔いつぶれを神話で正当化するなwww
カイト
カイト
原点回帰の使い方が最悪
リョウタ
リョウタ
この話が残ってるのは、古い詩のエッダと、十三世紀アイスランドのスノッリっておっさんがまとめた散文のエッダ。
キリスト教化の後に書き残された断片だから、きっちりした一冊の説明書というより、古い話を拾い集めた濃いメモ帳に近い。
マオ
マオ
だからところどころ急に雑なのか
リョウタ
リョウタ
そう。ギンヌンガガプから始まって、氷と火、ユミル、牛、ブーリ、オーディン三兄弟、世界づくり、最後に流木の人間。順番だけ見るとめちゃくちゃだけど、声に出すと覚えやすい。
ナギ
ナギ
牛のところだけ強すぎて絶対忘れないwww
リョウタ
リョウタ
じゃあ持ち帰りはこれ。北欧の始まりは、空っぽの裂け目に氷と火。そこからユミル。牛が氷を舐めて神々の祖先。オーディンたちがユミルを倒して世界を作る。最後に海辺の流木から人間。
カイト
カイト
要約してもだいぶ変だな
リョウタ
リョウタ
変だから残るんだよ。きれいな話は忘れる。でも、火と氷で巨人、牛が三日ペロペロ、流木が人間。この三つは一回聞いたらもう頭から出ていかない。
マオ
マオ
たしかに今日から流木見たらちょっと仲間だと思うwww
リョウタ
リョウタ
それでいい。北欧神話は、すごい神聖な顔して、けっこう雑で、でかくて、人間くさい。世界の始まりからして、完璧な設計じゃなくて、寒さと熱さと牛と拾い物でなんとかしてる。
ナギ
ナギ
天地創造のわりに、なんとかした感がすごいwww
リョウタ
リョウタ
そこが北欧。かっこいい神話の奥に、現場のバタバタが見える。だから飲み会で話すと強い。名前は難しいけど、絵が一発で浮かぶから。

よくある質問

Q. ギンヌンガガプって何?
A. 世界ができる前の巨大な裂け目だ。氷と霧のニヴルヘイム、火のムスペルヘイムの間にあり、両者が触れて溶けたしずくから創世が動き出す。
Q. ユミルって誰?
A. 原初の巨人だ。霜の巨人たちの祖先で、オーディン、ヴィリ、ヴェの三兄弟に倒され、その一体を材料にして世界が作られたと語られる。
Q. アウズンブラは何をしたの?
A. 原初の牝牛だ。ユミルを乳で養い、塩気のある氷を三日舐めて、氷の中から神々の祖先ブーリを出した。
Q. 人間はどう生まれる?
A. 神々が海辺で二本の流木を拾い、アスクとエンブラを作った。そこに息、精神や知恵、感覚や血色を与えて、最初の人間が動き出した。
Q. この北欧神話は何に残っている?
A. 古い詩のエッダと、十三世紀アイスランドのスノッリがまとめた散文のエッダに残る。キリスト教化の後に書き残された断片なので、雑さと濃さが同居している。

次に読む

もし現代でやったらコンプライアンス違反疑惑度★★★★★

世界創造の前に死体損壊で止まる

  • 刑法190条死体や遺骨などを損壊し、または遺棄する行為に関する規定(死体損壊等)。
  • 刑法199条人を殺した者に科される罪の規定(殺人)。
  • 刑法204条人の身体を傷害した者を処罰する規定(傷害)。
  • 民法709条故意または過失によって他人の権利を侵害した者に損害賠償責任を負わせる規定(不法行為)。

元になった物語の出来事に、現代日本の実在する法令を当てはめたらどの条文に触れうるか、という読み物としての見立てです。条文番号だけを並べています。

腕試し(オリジナル問題)

過去問の丸写しではなく、この記事のために作った自作の練習問題です。腕試しにどうぞ。

問1ユミルから世界が作られる話の意味を説明せよ。